INDEX NOVEL

人生は上々だ  〜 Life Is Dandy 〜 〈 中 〉

※ 性描写があります。未成年の方はお読みにならないでください。

 退社時間ぴったりに正樹はフロアを飛び出した。部長が後ろで何か叫んでいたが、聞こえなかった事にした。
 あの後すぐに鬼塚からメールが届き、日下部と退職について話してから八時頃に行くとの事だった。飲んで来るのだろうけれど、またきちんと食べては来ないだろうと思ったので、スーパーで寿司や唐揚げなど総菜を買って帰り、大急ぎで部屋の掃除をした。
 八時を過ぎた頃、鬼塚はケーキの箱を持ってやって来た。有名なフルーツパーラーの物で、鬼塚が甘い物が好きではないのを知っているから、受け取りながら「これは?」と聞くと、「日下部さんが買ってくれた」と苦笑いした。
「『ご苦労様』だってさ。どうせなら酒にして欲しかったよ」
「受理して貰えるって事ですか?」
「うん。後任がいないと先延ばしされる事もあるけど、住吉が引き継ぎしてくれる事になったから、三月末で辞められる。有給が残ってるが、ギリギリ二十八日まで黙ってて貰う事にして、それまでは普通に出社する。あとは引き継ぎの状況次第かな」
「そうですか……」
 やっぱり、本当に辞めてしまうのだと思うと、別に会えなくなる訳でもないのに、寂しいと感じてしまう。今まで当たり前だと思っていた事が変わってしまうのは、喩(たと)え良い方向にでも、少なからず抵抗を感じるものなのだろう。
「そんな顔するなって、言っただろう?」
 困った顔をする鬼塚に「すいません」と謝ると、笑いながら「腹へった」と催促され、正樹はケーキを冷蔵庫に仕舞うと、総菜を出して温め直しコタツの上に並べた。
「じゃあ、俺からも、これ、退職祝いです」
 正樹は日本酒専門店で買った “ 奥飛騨 ” を出してグラスに注いだ。普通は一本まるまる差し出すものだろうけれど、決してケチっているのじゃなく、鬼塚の酒癖があまりよろしくないのを知っているから、用心しての事だ。
「奥飛騨? へぇ、初めて飲むな……」
「お店の人に勧められたので、俺は味は良く分からないんですけど、どうですか?」
 鬼塚はさっそく口をつけ、「うん。上手いよ」と言って目を細めた。正樹はほっとして、そう言えば、清水に貰った方の酒はどうしたのだろうと、「清水さんに貰ったお酒、どうしました?」と聞くと、鬼塚は「飲んでない。戸棚に仕舞ったまんまだ」と言ってため息を吐いた。
「返したら失礼だろうし、余計怒らせるよなぁ。でも何か、飲めなくてな……」
「まあ、せっかく頂いたものだし、気が向いた時に飲んでみたらどうですか?」
 余計な事を訊いたなと思いながら、余計ついでに、今日会社のトイレに籠りながら考えていた、今後の清水対策を提案した。
「それで、清水さんの事なんですけど、俺に任せて貰えませんか?」
「任せるって…どうするんだ?」
「清水さんと話してみます。彼女が一体どうしたいのか、直接訊いてみますよ」
「でも、それだと俺たちが付き合ってるって、バレるんじゃないか?」
「う〜ん…そうなるかも知れませんが、話の流れ次第ですかね。バレたらバレたで、その時は俺も覚悟を決めますよ」
「そんなの…駄目だ」
 心配そうに首を振る鬼塚に、大丈夫だと笑って見せた。
「自分の事でもあるし、蚊帳の外にいるのは嫌なんですよ。確かに、この事で職を失うのは痛手だけど、俺、何やっても食べて行ける自信あるんですよ。別に、仕事に拘りないんです。でも、その事をマイナスだとは思ってません。嫌な言い方だけど、会社とか仕事とかって、俺がいなくなっても、困りゃしないんですよ。穴埋めは幾らでもいるし、普通に回って行くんです。だったら、どこでも働ける所で、精一杯やれば良いかなって思うんです。山崎や前田とは、顔を合わせられなくなるかも知れませんけど、それならそれで仕方ない。これも、酷い言い方かも知れないけど、他の誰も、あなたには替えられないから」
「堤……」
 鬼塚は目を見開いて正樹の顔を見ていたが、やがて目を伏せて「すまん…。でも、ありがとう」と呟いた。正樹は慌てて「上手くやりますから、任せてください」と笑いかけ、食事をしましょうと促すと、鬼塚も笑って箸を取った。
 けれど、鬼塚は心配事があると食が進まないようで、おかずも摘みはするけれど、どうしても酒にばかり手を伸ばす。それをコントロールして、何とか寿司などの炭水化物を多く食べさせた。
 太らせたいからもっと食べて欲しいのだが、今日のところは諦めて、あらかた食べると自分が後片付けをするからと、鬼塚に風呂を使わせた。
 着替えなどの下着は正樹が新しいのを揃えてあるし、ワイシャツの替えは鬼塚が自分で近くの量販店で買って来ていた。確かにその気で来た、という意思表示のようで、正樹はいつになく胸が高揚したが、お互いの家に泊まり合うよりも、出来れば早く一緒に暮らしたいと思った。
 これからは気軽に会えなくなるのに、子どもみたいな人だから心配で、すぐ手の届く所にいて欲しかった。気が早いのは重々承知で、目の上のたん瘤(こぶ)を処理したら、思い切って同居を申し出ようと決心した。
 台布巾を洗い上げたところで、ちょうど鬼塚が出て来たので、「まだ寒いから、ちゃんとカーディガン羽織って、コタツ入っててくださいよ」と言い置いて、入れ違いに正樹が風呂に入った。
 逸る気持ちで身体を洗い、カラスの行水で出て来ると、鬼塚は首までコタツに潜ってテレビを見ていたが、そのコタツの上には、眼鏡とグラスと奥飛騨のボトルが……。
「ああっ!」
 思わず大きな声を上げてしまい、慌てて口を押さえて鬼塚を見たが、こちらを振り向くどころか、ピクリとも動かない。
『まさか、酔って寝てるのか、この人…』と、ソロリソロリと忍び足で近寄ると、果たして鬼塚は目を瞑(つむ)っていた。嘘だろうと思いながら上から鬼塚の顔を覗き込むと、ぱちっ、と目を開けて「遅い…」と呟いた。
「すいません…」
『早かっただろうが!』と心で反論しながらも、ついつい謝ってしまう。この人には一生頭が上がらないな、と思いながらコタツに入ると、直ぐさま鬼塚の足が正樹の足に絡んで来た。
「えっ、お、鬼塚さん?」
「しねぇーの?」
「えっ、いや、します、けど……」
 やはりウトウトしていたのだろう、少し鼻にかかった甘ったるい声で誘いながら、鬼塚は足の指で器用に正樹のスウェットの裾を引っ張っている。
 嬉しいと言えば嬉しいのだけど、酔った鬼塚はちょっと質(たち)が悪い。その上、酔いが醒めても自分の身に起こった事は、全て覚えているから始末に負えない。この状態で致して良いものか、かなり戸惑った。
 する、と言ったくせに、じっとしたまま動かない正樹に焦れたのか、鬼塚が器用な足の指で正樹のふくらはぎをつねった。
「ちょっ、痛いですよ!」
「だって、しねぇーんだもんよ」
 まるで意気地がないと嘲笑(あざわら)うような言い方に、さすがにカチンと来た。
「しねぇーって…ねぇ、だってアンタ、酔ってるじゃないですか!」
「酔ってねぇ」
「酔ってます! 酔っぱらいはみ〜んな、そうやって『酔ってねぇ』って、言うもんなんですよ!」
 鬼塚の声音を真似て言い返すと、スネを思い切り蹴られた。
「痛ってぇ!」
 さすがに頭に来てコタツの中の鬼塚の足を掴むと、鬼塚が「仕方ねぇだろ!」と叫んだ。何が仕方ねぇんだよと、ムッとしたまま鬼塚を見ると、鼻先までコタツに潜り込んでいる鬼塚の目元が赤かった。えっ、と焦ってよく見ると涙が滲んでいる。
 慌ててコタツから出て鬼塚の側ににじり寄り、耳元で「どうしたの?」と声をかけた。鬼塚は拗ねたようにくるっと背中を向け、小さな声でボソボソ喋り出した。
「オマエは…慣れてんだろうけど、俺は……この歳、して……は、は……じ……」
 初めてだから、と続くだろう台詞は消えてしまったが、恥ずかしくて酔わなきゃいられなかったのかと、ここに来てやっとその心情を理解した。途端に、正樹の中から愛おしさが溢れ出した。恥ずかしくても、ぞんざいにでも、精一杯誘ってくれてたんだと思うと、嬉しくて堪らなかった。
「うん……でも、俺は嬉しいよ」
 鬼塚の張りのある黒髪を撫でながら囁くと、「…酔っぱらいは、ヤなんだろ」と拗ねたような声が返って来た。正樹は苦笑して「嫌じゃないよ」と言いながらコタツ布団を捲り上げ、鬼塚のうなじに吸い付いた。
「あっ、あ……」
 鬼塚は震えて首を竦めたが、正樹はそのまま舌先で首筋をなぞり耳たぶを甘噛みすると、鬼塚の身体が逃げを打った。正樹は逃がさないよう上から覆い被さるようにして、また耳元で囁いた。
「ちゃんとしたいから、ベッドに行こう? でないと、もう我慢出来ないから、ここで…このまま、しちゃうよ?」
 言いながら耳に音を立ててキスすると、鬼塚がコタツの中の足をバタバタさせた。小さく笑いながら身体を浮かせると、鬼塚はその下から慌てて這い出して、襖続きの隣りの部屋に鎮座しているベッドへと逃げて行った。
 付き合い始めてから、鬼塚は裸眼でも割と見えているらしいのを知った。なぜ嘘を吐いていたのか不思議に思いながら、ずっと訊けずにいたが、それが自分に触る口実だったのだと、今日トイレで判明した。思い返すと、時に憎たらしい行動がすべて、素直になれない鬼塚の照れ隠しのなせるわざだと分かる。まったく可愛いオジサンだなと、忍び笑いがもれた。
 正樹は立ち上がるとコタツとテレビのスイッチを消したが、部屋の電気は消さずにベッドの側へ移動した。その途中で着ている物を全て脱いだ。鬼塚は暗いベッドの上でじっとしていた。
「鬼塚さんも脱いで?」
 笑いかけると、茫然としていた鬼塚は、真っ赤になって片手で顔を覆った。
「電気、消してくれよ! お前と違って、そんな立派じゃないし、どこもかしこも、見せられる代物じゃないんだから!」
 鬼塚に指をさされた正樹のそこは、コタツで戯れ合っている時から半勃ち状態だった。自分では普通サイズだと思っているが、鬼塚よりは確かに大きいかも知れない。
「今更でしょう? みそ汁かけちゃった時も裸見たし、初めて泊まった時だって、隅から隅まで見ちゃったし」
「そ…う、だけど!」
 正樹はベッドに乗ると鬼塚の身体を抱きしめた。そうしてまた首筋にキスすると、「こっちは暗いし、眼鏡ないから、そんなに見えやしないでしょう?」と言って、耳の穴を舐め回した。
「うっ、わぁ……」
 鬼塚はブルブル震えて首を竦めた。初めてされる事ばかりなのか、鬼塚の反応はいちいち大げさで色気がない。これは、教育のしがいがあるなぁと苦笑しながら、耳への愛撫を続けていると、鬼塚は観念したのか、助けを求めるようにしがみついて来た。
「ほら、脱いじゃお?」
 正樹が囁きながらTシャツの裾を掴んで捲り上げると、鬼塚はのろのろとTシャツを脱ぎ、続けて下も脱いで裸になった。正樹はその間にコンドームを装着し、指にも嵌めてジェルを垂らした。
 本当は、今日は最後までするつもりはなかった。いくら経験が豊富な方でも、初めてで良くしてやれる自信はなかった。でも、鬼塚が自分から誘って来たのだと分かった時から、性欲のスイッチが入ってしまった。『最後までする』なんて言えば、きっと鬼塚は怖じ気づくだろうから、黙ってしてしまうつもりだった。
 正樹のにスキンが付いているのを見ると、鬼塚が『俺は?』と言う顔をして正樹を見た。正樹は「鬼塚さんは、後でね」と笑って鬼塚に口づけすると、ゆっくりベッドに押し倒した。
 片手で優しく髪を梳きながら、鬼塚の唇と舌を堪能した。ディープキスに慣れた訳ではないだろうが、嫌がる素振りは見せず、たどたどしく自分からも舌を絡めて来るのが可愛かった。
 唇を移動させて首から胸を辿り、小さな突起に吸い付いたが、「わっ、くすぐったい!」と嫌がって頭を押さえられた。
「イヤ?」
 訊くと「ん〜〜」と呻いてはっきり答えずモジモジしている。乳首が勃っているから感じているのだろうが、性感帯としては良くないのかも知れない。
 正樹もここはあまり感じないので、おいおい開発しようと諦めて、胸から臍まで舌を這わせると、「んっ!」と息を詰め鬼塚の腹筋が痙攣した。見るとあそこも完全に勃ち上がっていて、充分感じているのが分かった。胸よりも腹、そして、当然ペニスが一番感じるらしい。
 正樹は鬼塚の足を開かせると、片手で捏ねながら温めていたジェルを、鬼塚の陰嚢から窄まりにかけて、マッサージするように撫でながら塗り付けた。
「やっ、あぁ……」
 急に色っぽい喘ぎをもらし、鬼塚は慌てて口元を手で覆った。そこは誰でも感じる場所だから当たり前なのだが、その反応に気をよくして、そのまま窄まりにつぷっと指を差し込んだら、鬼塚が仰け反って悲鳴を上げた。
「いっ、いきなり、突っ込むなよっ!」
 涙目で抗議する鬼塚の剣幕に尻込みして、指を入れたまま恐る恐る「イヤ?」と訊いた。すると鬼塚は困ったような顔で「イヤじゃ、ない、が…」とモジモジし始めた。
「…なんか、出そうなんだよ!」
 顔を背けて拗ねたように言われ、正樹は納得して苦笑いした。
「あ〜〜、大丈夫。そんな気がするだけだから。そのうち良くなります」
 アナルの快感は抜かれる時に感じるから、慣れないうちは排泄時を思い起こされて、不安になるものなのだ。
 したり顔で説明すると、鬼塚が少し顔を戻し横目で睨むように「お前、入れられた事あるのか?」と訊いた。正樹は嫌な予感がして躊躇しながら答えた。
「あ〜〜……そりゃ、まあ、ありますよ」
 セックスを覚え始めたばかりの頃は、どちらが具合が良いのか分からなかったから、求められればどちらでもした。はっきり攻めだと自覚したのは、好きな人が出来てからだったように思う。
 その答えに、「へえぇ…」と鬼塚が冷たい返事を寄越した。正樹は天を仰ぎつつ、過去話などしなければ良かったと後悔した。同時に、そっちが訊いたんじゃないかと、むかっ腹も立った。
 鬼塚の反応だって、初めてだから仕方がないが、色っぽい雰囲気からはほど遠く、さすがにあそこも元気がなくなっていた。やはり、いきなり繋がるのは無理かと、ため息を吐いて指を抜こうとしたら、鬼塚が何かボソリと呟くのが聞こえた。
「…め…だ、から……」
「えっ?」
 よく聞こえなくて顔を寄せると、「もう、俺以外としたら、駄目、なんだから…な」と言って、そっぽを向いた。
 聞いた途端、股間がカッと熱くなった。アンタ、なんて可愛い事を……。
「うん! もう鬼塚さんとしかしない。愛してる。だから、挿れたい。最後までしたい。いい?」
 俄然興奮して、背けた頬に顔を寄せ、犬が戯(じゃ)れるようにキスと頬擦りを繰り返しながら、鬼塚の内に入れた指をゆっくり回すと、あっ、と喘いで背中を撓(しな)らせた。
「ダメ?」
 逃げる頭を抱えて耳たぶを甘噛みしながら囁くと、鬼塚は「ん…」と吐息のような返事をした。それを聞き届けてから指を増やし、大きく回転させながら抜き差しを続けた。
 経験値から当たりをつけた前立腺の場所を探ると、鬼塚が仰け反って悲鳴を上げたので、喜々として更に擦り上げると、鬼塚の腰が自然と突き上げるような動きを見せた。屹立したペニスが大きく揺れて、先走りが先端から糸を引いて飛んだ。
「ああ、すごい! イイよ、鬼塚さん……」
 正樹は鬼塚の痴態にゾクゾクして感嘆のため息をもらした。
 正樹にとってセックスは、射精だけが目的ではなくて、相手をどれだけ泣かせて喘がせて、快感を与えられるか。そこに喜びと興奮を感じるタイプだった。サドではないから痛めつけるのは好きではないが、多少強引でしつこいのは自覚している。
 目の前で自分の与える快感に震えている一物が、愛おしくて堪らなくて、ぱくりと銜えて激しく吸引した。
「んあぁ……あっ、あっ、やあぁ……んっ、くうぅ……」
 鬼塚は初めてされる口淫に驚いて、かなり大きな喘ぎ声を上げたが、すぐに自分の手で口を塞ぎ、もう片方の手で正樹の頭を抑えにかかった。負けじとばかり、舌を絡めて裏筋を上から下まで丹念に舐め上げてやると、鬼塚の身体は痺れたように震えて力が抜けた。
 正樹はフェラチオに自信があった。女性経験のない鬼塚は知らないだろうけれど、口腔で扱かれる快感は、女性の “ そこ ” でするより上なのだそうだ。正樹だって、女性のそこがどれくらい “ イイ ” のか、本当の所は知らないが、ノーマルの男性をフェラと指テクで落とした事があるから、負ける気がしない。
「あっ…ぁ……もう、出るっ…から……ああっ、ん……離せぇ、堤……」
 しゃぶりながら竿を扱いている正樹の手を掴んで、鬼塚が喘ぎながら激しく首を振った。
 正樹は鬼頭部を弄(もてあそ)ぶように舐め回して先走りを吸い取り、ちゅっ、と唇を離した。
「正樹って、名前で呼んで…ね、幸一朗さん」
 甘えるように言いながら、舌先で鈴口を穿(ほじ)った。言わなきゃ、言うまで虐めてやろうと思ったが、鬼塚は思いも寄らない返事をした。
「幸(こう)だ…。幸一朗じゃなくて、家族は、幸って、呼んでた……」
「コウ……」
 家族と同じ呼び方……。胸がギュッと掴まれた気がした。嬉しくても胸が痛くなるんだと、正樹はこのとき初めて知った。
「コウ、出して!」
 感極まって、有りっ丈のテクで達かせてあげようと、根元まで飲み込んで舌で激しく扱き上げた。
「ちょっ、まって、正樹!」
 鬼塚は慌てたように正樹の頭を押さえたが、唇で吸引しながらネットリ絡み付いて扱き上げる舌業に、ひとたまりもなく昇天した。
 息を詰める気配がして、正樹の喉に粘り気のある温かい液体が流れ込んで来た。量が多かったが、吸引するように全て嚥下すると、鼻の奥に青臭い匂いが広がった。
 身体を固くしたまま、鬼塚は吐精の余韻に震えていた。反射で体内に入れている正樹の指を、襞が蠕動して擦り上げる。指先からの刺激に、正樹のペニスがひと回り大きくなって、ピチッとスキンの軋(きし)む音がした。
 ああ、早くこの中に入りたい。窄まりを穿(うが)ち、襞を擦り上げ、コウの体内(なか)を自分の精で満たしたい。
 慣れたら絶対 “ 生 ” でしようと決意して、柔らかくなった鬼塚を口内から解放すると、逸る気持ちで窄まりの解しを再開した。その刹那、鬼塚が正樹の手首を掴んで首を振った。震える唇が『ダメだ』と動く。敏感になっているから、動かしたら駄目だと言いたいらしい。
「つらい?」
 訊くと、コクンと首が縦に動いた。仕方なく、正樹はスキンと一緒に指を引き抜くと、鬼塚の身体をビクッと跳ねた。
 一度出してしまった方が解す間が保つと思ったのだが、いきなりで激しくし過ぎたようだ。細いから体力的にも限界を迎えてしまったのだろう。
「まだ、解し足りないけど、挿れるね。ごめんね。もう、我慢の限界」
 正樹は自分の方が限界だと嘘を吐くと、魂が抜けたような顔をしていた鬼塚が、ふっ、と笑って「しょうがねぇな…」と呟いた。心の中で『あれ、面倒くせぇ、じゃないんだ』と思ったが口には出さず、その楽しそうな唇に、チュッとキスして「ごめんね」と囁くと、鬼塚の両足を抱えて、自分の肩に担いだ。
 初めてだと背面位の方が楽なのだが、惚れた顔を見ながら挿入したかった。思ったよりも鬼塚の身体は柔らかく、かなり開脚しているので後ろ孔も広がりやすいだろう。
 せめて滑りを良くして痛みを軽減してやろうと、自分のモノと鬼塚の窄まり、弛緩したペニスにも、たっぷりジェルを塗り付けた。そのまま何度か切っ先を鬼塚の窄まりに擦り付けていると、鬼塚が「も…面倒くせぇなぁ。遊んでないで、さっさと入れろ!」と、正樹の首に抱きついて引き寄せた。その勢いで先端が入ってしまったが、一番太い所で止まってしまったから、鬼塚は「ぐっ!」と呻いて身悶える事になった。
「力(りき)んじゃ駄目です! 力抜いて!」
 苦悶に満ちた表情で脂汗を浮かべている鬼塚に、助産士みたいな掛け声をかけて、思い切ってぐっと奥まで押し込むと、割とすんなりと呑み込まれた。切れやしないかヒヤヒヤしたが、大丈夫なようなのでホッとすると、鬼塚が「便秘の時みたいだ…」と呻いたので、ブッ、と吹き出してしまった。
「あっはははは、もう、ははは…全然、色気…ない…ははははは…」
「あっ、ダメ! あっ、あっ……」
 ゲラゲラ笑うと、鬼塚が身悶えた。腹筋が動くから挿入した一物も動いて、小刻みに振動を与えてしまったようだ。挿入したまま爆笑したなんて初めてだから、慌てて「ごめん」と謝ったけれど、見ると鬼塚のそこも復活しかけているし、ただ苦しいだけではない、艶を含んだ吐息をもらしていた。
 この人、初めてだってのに…すごいな。正樹はまたしても、少々加虐的な本能に火が点いた。
「もう、大丈夫みたいだね……」
 ほくそ笑むと、ゆっくり腰を進めてペニスを根元まで埋め込み、ゆっくり抜き差ししながら、鬼塚のペニスの付け根あたりを重点的に刺激した。
「あっ…うう、ん……なん、で……」
 鬼塚も自分の身体の変化に気づいたようで、自分のそこに触れると、震え上がって悲鳴を上げた。
「……も、出ない…のに…、なっ、何で、やだぁ、正樹、やっ…あっ、あぁ……」
「うん…出ないね。出ないけど、気持ちイイ、でしょう?」
 前立腺を刺激されて、再び臨戦態勢にまで膨張したそこを、鬼塚の手の上から優しく一緒に扱いてやると、鬼塚は泣きながら快感に身悶えた。人によっては続けて射精出来るが、たぶん、鬼塚は出ないだろう。出そうに感じるけれど、出ないまま絶頂感が続くのだ。
 更に腰の動きを速くしてやると、小刻みに何度も腸壁が痙攣を繰り返した。その度に、鬼塚は浅い呼吸を止めて身を固くする。短い絶頂が続くだけで、放出できない熱が溜まっているのだろう、汗がこめかみから流れ落ちている。
 鬼塚は自分の足を拘束している正樹の腕を掴んで、激しい揺さぶりに耐えながら、その苦痛とも言える快感を与え続ける男に助けを求め、ひっきりなしに正樹の名を呼んだ。
「あっ、あっ、正樹…正樹、イク、やぁ…も、ダメ、怖い……やあぁ…正樹ぃ……」
 色気がないなど、とんでもない。脳に染み込む艶やかな泣き声に、正樹はすっかり箍(たが)が外れてしまい、音がするほど激しく腰を打ち付けた。
 最高だった。絡み付く柔らかな肉の感触も、まっさらで素直な鬼塚の反応も。正樹は動物のように呻きながら、夢中で腰を振った。
 自分だけの快感を貪りながら、それでも、快楽の波の狭間で聞こえて来る、怖い、怖いと繰り返す鬼塚の声に答えるために、荒い息を吐きながら、「大丈夫、怖くないよ」と繰り返した。
「コウの事、愛してるから、大丈夫……」
 そうして、何度も突き立てるような抽送を繰り返し、最後は鬼塚の手を握りしめて「愛してるよ」と叫びなら一気に高みを駆け上った。
「…あつ…い……」
 久し振りに感じる、脈動と共にスキンの中一杯に広がる自分の精の熱さに、泣きたくなるほどの満足感を味わった。
 鬼塚の方は、あまりに快感が強過ぎて朦朧としてしまい、半分意識が飛んだような状態だった。正樹が鬼塚の中から出ても、暫く痙攣が続いていた。
 今更のようにやり過ぎたと慌てたが、軽く頬を叩きながら「コウ、コウ?」と声をかけると、「ん…」と、返事をしたので心底ホッとした。すぐにタオルを出して体中の汗を拭ってやり、下着を着せてから蒸しタオルでもう一度顔を拭ってやると、人心地ついたのか「ねむい…」と呟いた。
「いいよ。お休み……」
 優しく囁いて額にキスすると、鬼塚はすぐに寝息を立て始めたので、正樹もざっとシャワーを浴びてから、鬼塚を抱き枕に朝までぐっすりと眠ったのだが……。
 翌朝が大変だった。
 二人して寝坊はするし、鬼塚は大股開きのアクロバチックな格好を長時間続けたものだから、股関節(こかんせつ)の辺りが痛くて歩く事が出来なかった。しかも、泣き過ぎて声は枯れているし、目が腫れぼったくて、冷やしてもなかなか元には戻らなかった。
「お前、俺の歳を考えろよな……」
 鬼塚は怒ってはいなかったが、年齢の差を実感したらしく、こんなものは慣れだと正樹がいくら説明しても、「やっても、二週に一度だぞ」と言い渡されてしまった。
 オマケに、恥ずかしいと苦悩する鬼塚の代わりに、正樹が日下部の携帯に電話を入れると、
「ああ、じゃあ鬼塚くんは “ 股関節痛 ” って事で、お休みね…。えっ? それじゃあ、清水くんに怪しまれる? では、“ 胃痛 ” で手を打とう。その代わり、昨日の事を『辻村』で色々聞かせて貰うからね。ああ、鬼塚くんには内緒にしておいてあげるよ。もちろん、君のおごりだよ。タバコ休憩の事もあるからねぇ」と、とんでもない約束をさせられてしまった。
 まあ、そのお陰で誰にも怪しまれずに済んだのだが、当然、午後から出社した正樹は、「最近、お前は弛(たる)んでるぞ!」と、部長にしこたま怒られた。

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