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秘密のピーチパイとチェリーボンボン 〈 8 〉

※ 性描写があります。未成年の方はお読みにならないでください。

 八月下旬の水曜日午後二時過ぎ、今日も田島は『エーデルワイス』に現れて、すっかり彼の定位置になったカウンター中央の席に着くと、「いつものね」と言って微笑んだ。
「あの…田島さんって、お休みいつまでなんですか?」
「んっ? それって、どこか遊びに行こうってお誘い?」
 嬉しそうにカウンターの上に身を乗り出した田島に、僕はブルブルと大げさに首を振って違いますと否定した。
「だって、もう一ヶ月近くもうちに来てるし…。会社員なのに、そんなにお休みしてていいのかなと思って…」
 いつまでうちに来るつもりだよと、呆れた気持ちを込めて言ったのだけど、田島は頬杖をついて上目遣いに僕を見ながら、ふふっと笑った。
「マキちゃん、俺の話、ちゃんと聞いててくれてるんだね。やっと俺に興味が出て来た?」
「田島さんじゃなくて、そんなにお休みくれる会社の方に興味があります」
 言いながら『いつもの』アイスコーヒーと叔母さんが焼いたクッキーのおまけを出すと、田島は「マキちゃんは手強いな〜」と苦笑しながらアイスコーヒーを美味しそうに一口飲んで、「九月の半ば…くらいまで」と言った。
「えっ、そんなに長く?」
 ビックリして思わず大きな声を出したので、カウンターの奥でサンドイッチを作っていた叔父さんも、お店のお客さんも僕たちに注目してしまった。
「あっ、ごめんなさい」
 赤くなって誰にともなく頭を下げると、みんなまた自分たちの話へ戻ってくれたけど、若干数名、テニスサークルのマダムたちが興味津々と言った感じてこちらを眺めている。
 田島の存在は、今や『エーデルワイス』を利用してくれてるお客さんの間で有名だ。特に、避暑で別荘に来ているお金持ちで、暇で、ウワサ好きなマダムたちの間で。
 僕は社交的な話に疎くて知らなかったのだけど、別荘の住人には近隣のコミュニティーだけでなく、仕事とか趣味の繋がりが大きな枠で存在しているらしく、田島がどこの誰かと言う事をマダムたちは知っていた。そして、決して近くはない距離を車を飛ばして珈琲を飲みに来る理由も。
 マダムたちが、『若くてハンサムなお金持ちの御曹司が、宮地さんとこのマキちゃんに、ご執心らしいわよ〜』とウワサしていると加奈子さんから聞いた時、僕は本当に目の前が暗くなった。
 だって、この街で誰にも知られないようにと、目立たず過ごして来た努力が水の泡になってしまう。それに、もっと大きな厄介事が起こりつつあるのだ……。
「俺はさ、仕事が始まると全然休みが無いんだよ。休日も接待ゴルフやら、企業間懇親会やらで出かけなきゃならなくてね。その代わりに、盆と正月は休みを少し長めに貰ってるワケ」
「そう、ですか…」
 僕はガッカリしながら返事をしたが、ふと思い立って聞いた。
「あっ、でも、お休みがまだそんなにあるなら、これからどこか旅行に行かれる予定とか、あるんでしょう?」
「旅行! いいねぇ、マキちゃんどこ行きたい? どこでも連れてってあげるよ」
 田島がニヤニヤしながらそんな返事をしたから、内心しまったと思ったけど、叔父さんが焦ったように顔を上げ「駄目ですよ!」と言ってくれた。
「冗談ですよ」と田島は戯けたように肩を竦めたけど、「でも、デートくらいはいいでしょう?」と叔父さんに向かって言ったものだから、僕と叔父さんはぎょっとして顔を見合わせてしまった。
「またあ、冗談ばっかり〜〜」
 僕は墓穴を掘ってしまった事に焦りまくりながら、何とか話を誤摩化そうとしたけど、田島は矛先を叔父さんに向けたまま切り込んで来た。
「大学生の泰治くんなら良くて、大人の僕では駄目って事はないですよね? 宮地さん」
 叔父さんは困り果てた様子で、僕と田島を交互に見ながら「いや、それは〜…」と口籠った。
『そうです』と言ってしまえば、保護者として泰治との交際を認めているという事になってしまう。今ここでそんな事を言ったら、きっとマダムたちが座間ベーカリーで買い物したついでに、おじちゃんや恭平さんにペラペラ喋ってしまう事だろう。
 それは避けたい所だけれど、叔父さんは実直過ぎて、美代子叔母さんみたいにちゃらっとした機転が利かない。
「それは、本人が決める問題ですから…」
 やっぱり駄目だったと思いつつ、『僕に振らないでよ!』と叔父さんに向かって両手を顔の前でブンブン振ったけど、叔父さんこそが僕に助け舟を求めて、縋るような目つきをしている。
 どうしようと思う間もなく、田島はクルっと僕に向き直り「という事だから、明日のきみの休日にデートしよう」と言い、絶句している僕から再び叔父さんに向かって宣言した。
「僕は大人ですから、節度はあるつもりです。だから、デートしてもいいですよね。宮地さん」
 有無を言わさぬ強い調子ではあったけど、あろう事か、叔父さんは首を縦に振ったのだった。

 その夜の家族での夕飯は、予想通り大荒れとなった。
 テーブルについた時から殺気だっていた泰治は、凄まじい勢いで自分の飯を平らげてしまうと、まだ半分も箸が進んでいない叔父さんに言い放った。
「俺、叔父さんたちに言いましたよねぇ? マキと交際させて欲しいって! それを何で、あんな野郎にデートの許可なんて出すんですかぁ?!」
 敬語は使っているけれど、まるでヤクザが凄んでいるみたいな口調でがなり立てるから、叔父さんは箸を握り締めたまま硬直しているし、加奈子さんもアジのフライに噛み付こうと口を開いたまま固まっている。
 動じてないのは叔母さんと譲さんで、多分、譲さんは泰治から交際の話を聞いていたのだろう。食事をする手は休めずに、興味津々の猫みたいな目でこの状況を見守っている。
「いや、あの…、だってさぁ〜…」
 叔父さんはオロオロしながら助けを求めるように叔母さんの方を見ている。本当はあの場にいた僕が、叔父さんをフォローしてあげなきゃいけないんだろうけど、僕もあの時きちんと断って欲しかったから、ムッと押し黙ったまま叔母さんの方を見た。
 視線が伝播(でんぱ)して、みんな叔母さんに注目すると、ふぅっと大きなため息を吐いて、叔母さんは徐(おもむろ)に口を開いた。
「そうね。私たちは泰治くんの申し出を了承したんだから、叔父さんが田島さんにデートの許可を出したのは良くないと思うわよ。でもね、泰治くん…」
 叔母さんは一旦言葉を切るとチラリと泰治の顔を見て、「あなた、マキちゃんがまだ十八歳で、未成年だって事、分かってる?」と言った。
「そんな事、分かりきってます!」泰治が苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「だったら、お客さんのいる前で、保護者である叔父さんが、あなたたちの交際を認めてます、なんて、言えないのは分かってもらえるわよね?」
「何で言えないんですか? 俺は真剣なんだから、誰に聞かれたっていいじゃないですか!」
「駄目よ。だって、それじゃあ、マキちゃんがもうあなたと “ やっちゃってる ” って、思われちゃうかもしれないじゃない?」
「はあぁ? 何でいきなりそうなるんすか? 俺はまだ何にやっちゃあいませんよ!!」泰治が真っ赤になって怒鳴った。
 僕は泰治の嘘つきめと思ったけど、叔母さんの飛躍には泰治と同意見だった。でも、僕の横で加奈子さんと譲さんは顔を見合わせて頷き合っていた。
「分かってるわよ。泰治くんが私たちとの約束を守って、清い交際をしてくれてるのはね。でも、ウワサって、どうしたって尾ヒレがつくものなのよ。“ 付き合ってる ” イコール “ セックス ” してる、“ 親公認の仲 ” イコール “ 結婚前提の付き合い ” ってなったら、こんな狭い街の中の事よ? あなたのお父さんたちにも迷惑かけちゃうような大事になるかもしれない。それに、“ まだどうなるかも分からない ” のに、嫁入り前の娘に傷が付くような事、私たちがしたくないと思うのは当然でしょう?」
 叔母さんが、“ まだどうなるかも分からない ” との言葉を強調して言うと、泰治はぐっと詰まって下を向いた。
 僕たちはお試しで付き合い出したばかりだし、ましてや僕は、泰治に好きだとすら言ってない。叔母さんは図星を指す…と言うかえぐって、無理矢理泰治を黙らせてしまったのだけど、僕は罪悪感で胸が痛くなった。
「だから、約束してしまったものは仕方ないとして、明日のデートは大目に見てちょうだい。でも、田島さんには私たちからきちんとお断りするから、安心してちょうだいな」
 叔母さんがにこやかにそう言うと、泰治は不満げな顔のまま叔母さんを凝視していたが、しばらくして頷いた。
「じゃあ、私たちはこの後 “ 家族会議 ” をしますから、早めに引き取ってもらっていいわよ」
 叔母さんの締めの言葉で夕飯を終わらせると、泰治は譲さんを連れてどこかへ行ってしまい、僕と加奈子さんで大雑把に後片付けをした。
 食器を洗いながら加奈子さんに、「泰治と付き合ってたの?」と確認するように訊かれ、「うん…」と小さく返事をすると、加奈子さんは「ヤ〜ダ、知らなかったから、宮地さんにいろいろチクちゃってたわよ〜」とケラケラ笑った後、でもねぇと改まった口調で「泰治はいいヤツだけど、よく考えた方がいいよ?」と言った。
 僕は呆気にとられて加奈子さんを眺め、「どういう意味?」と聞くと、加奈子さんはチョロっと舌を出して「だって、田島さんてお金持ちらしいじゃない? ハンサムだしさぁ」と言った。
「私もさ、泰治の事いいなと思った時期もあるのよね。でも、真面目過ぎるって言うか、融通が利かないって言うか、頑固だし、顔怖いし、本当は優しいのに、凶暴に思われがちだしさぁ〜。損だよね〜。あれは絶対、出世できないタイプだと思うよ? その点、譲くんはそつがなくてバランスがいいのよ。物足りないと思う部分もあるけど、やっぱり結婚相手は、将来性で選んだ方がいいと思う」
 僕はちょっとショックを受けてしまった。女の結婚観ってこういうものなのか…。
「好き、嫌いとか、気持ちはどうでもいいの?」
「どうでもよくはないわよ。誤解しないで、私はちゃんと譲くんが好きよ。でも、一番好きとか、マル好みかって言われたら、少し違うわね。でも、ずっと一緒にいる人は、それでいいのよ」
「加奈子さん、譲さんと結婚するの? まだ若いのに、もう、譲さんって決めちゃってるの?」
 何となく意地の悪い気分になって質問すると、「今はね、そのつもり」と、またチョロっと舌を出して笑った。

 加奈子さんが離れに引き取った後、複雑な気分で僕は叔母さんたちの部屋へ行ったけど、“ 家族会議 ” は泰治を帰らせるための口実だったようだ。叔母さんは不安げな僕の顔を見て、大丈夫よと明るく笑った。
「さっきも言ったけど、田島さんには私から娘は交際させませんってお断りするから、明日だけ何とか乗り切って」
「でも、何て言って断るの?」
 もしも、断った後もしつこく『エーデルワイス』に来られたら、お客として相手をしなくてはならないだろうし、口裏を合わせておいた方がいい。
「うん……」
 僕の問いかけに叔母さんは珍しく口籠り、気を悪くしないでねと前置きしてから、「マキは身体が弱くて子供ができない身体ですからって、伝えるつもりなんだけど…」と言った。
 それを聞いて、僕は思ったよりもショックを受けた。確かに女じゃないから子供はできないけど、吐いて良い嘘と悪い嘘があるとしたら、僕には悪い嘘のように思えて仕方なかった。
「いずれ、泰治くんにもそう言うつもりよ…」
「それは!」
 嫌だと思わず首を振ると、叔母さんも叔父さんも困惑したように顔を見合わせた。
「嫌でも…田島さんに話せば、きっとウワサで広まってしまうだろうし、人の口から聞くより、私たちから聞いた方が、まだいいのじゃないかと思うけど…」
「だったら、最初から泰治にもそう言って断れば良かったじゃない!」
 あんなに毎日思わせ振りな態度を取っておきながら、こんな落ちでした…なんて、『好きになれなかった』と告げるのと、どちらが質が悪いだろう?
 今更だけど、僕たちがしている事は酷すぎると思った。
「でも、マキちゃん、高校を卒業したら “ 男の子 ” になるんでしょう?」
 僕はさっきの泰治みたいに、ぐっと詰まって俯いた。そうだ、どっちにしろ泰治を傷つけてしまうのは同じ事なんだ。だって、僕は男なんだから。それを正直に言えない以上、何をやっても同じ事なんだ。
 俯いた僕の頭を叔父さんが撫でながら言った。
「確かに、最初から交際させなければ良かったねって、さっきも美代子さんと話してたんだよ。でもあの時は、まさか泰治くん二号が現れるなんて思いもしなかったからね…」
 仕方がなかったんだよと叔父さんは言ったけど、僕は重たい気持ちを抱えたまま叔母さんたちの部屋を後にして、裏口から自分の部屋の離れに向かった。
 何も考えたくないんだけど、どうしたって明日の田島とのデートの事や、泰治の気持ちを考えてしまい、暗い足元ばかり見て歩いていたから、部屋の前に誰かいるのなんて気づきもしなかった。
「マキ!」
 声をかけられて、はっとして顔を上げると帰った筈の泰治が立っていた。
 不意打ち過ぎて茫然として動けずにいると、「寒みぃから、早く中入れて」と促された。夏でも高原の夜は寒いくらい涼しくなる。慌てて鍵を開け中に入ると、後から続いた泰治に抱きしめられた。
「たっ、泰ちゃん?」
 僕が悲鳴に近い声で泰治を呼ぶと、乱暴に身体の向きを変えられてキスされた。
 キスをするのは、これが初めてじゃない。僕が泰治の手を握った次の晩から、僕らは軽いキスを交わすようになっていた。だってそうしないと、泰治は部屋に居座ってなかなか家に帰ろうとしなかったからだ。でもこれは、いつもの可愛いものじゃなくて、まるで舌を食べられているみたいな激しいものだった。
「んっ、く、くう、んんっ、ん〜〜!!」
 ディープキスなんて初めてだし、慌ててしまって鼻から息が出来なくて、苦しいから止めてと言いたいのだけど、僕の舌は泰治の口の中に飲み込まれているような状態だったから、全く言葉が出せない。それに下手に暴れたら、泰治の歯で噛み切られちゃうんじゃないかと怖くて、僕は泰治にしがみついているしか、なす術がなかった。
 泰治は夢中になって僕の舌をしゃぶったり、噛んだり、扱いたり、それこそ好きなようにし蹂躙した。閉じられない口から唾液が流れ落ちて、鼻から泣きそうな悲鳴を上げるとやっと離してくれたけど、僕の垂らした唾液の跡を見ると犬のように舌で舐め取りながら、また僕の唇に吸い付いて恥ずかしくなるくらい何度も音を立てて、啄むようなキスを繰り返した。
 もし、これが鳥肌が立つくらい嫌だったなら、迷わず泰治を突き飛ばすのだけど、泰治のキスは嫌ではなかった。ほんの数回のキスで免疫がついてしまったからか、こんな生々しいキスですら嫌悪ではなく、ストレートに性的な衝動が沸き上がって、その事の方に戸惑ってしまった。
 そんな僕の戸惑いにはおかまいなしに、泰治は抱きしめた背中やお尻を、手のひらでいやらしく弄(まさぐ)って来る。ゾクゾクした悪寒にも似た快感が足の方から這い上がって来て、僕は腰が立たなくなってしまった。ガクッと崩れそうになるのを、泰治の腕が抱きとめてそのまま横抱きに抱え上げ、急(せ)いたようにベッドまで走った。
 僕は不安定な体勢が怖くて泰治にしがみついていたものだから、泰治は僕ごとベッドの上に飛び乗って、そのまま僕の上に馬乗りになり、しがみついた僕の腕を引き剥がして、そのついでみたいに僕のTシャツまで剥ぎ取ってしまった。
「ひぁっ!」
 当然僕はブラジャーをしていたけど、反射的に胸の前で両腕をクロスして隠した。泰治は獰猛な目で僕を見下ろし、息を呑んで見つめる僕に向かって信じられない事を言った。
「騒いでも、いいんだぜ……。でも、助けなんて来ない。隣りは誰もいないぜ。譲が俺の車で加奈子を連れ出した。朝まで帰って来ないように頼んだから、今頃はドライブか、車ん中でお楽しみだろうぜ。さすがに、ここから母屋まで声は届かないだろうし、よしんば聞こえたっていいんだ。“ どうにかなっちまった ” って知れ渡ったら、俺がちゃんと責任を取るからな」
 既成事実を作るつもりなんだと、そりゃ、この状態までくれば僕にだって分かる。キスされている最中はパニックになったけど、今は案外冷静だった。ただ犯してしまうだけなら、すぐにでも始めればいいのに、こんな言い訳をしている泰治には、まだ心に躊躇があるのだろう。
 僕はどうにか泰治に落ち着いてもらおうと口を開くけど、精神的に叔父さんに似ているのか、上手い言葉が見つからない。
「たい、ちゃ…ん、待って、よ……」
「もう、じゅうぶん待っただろうが! これ以上うかうかしてたら、あのいけ好かない成金ヤローに、お前を持ってかれちまう!」
「断るって、言ったでしょう?」
「ついでに、俺の事も、断るつもりなんだろう?」
 僕は愚かにも目を見張ってしまった。もう、それだけで泰治には分かってしまったんだと思う。泰治は険しい表情(かお)をすると、胸の前で組んだ僕の両手を掴んで、万歳するように頭の上で押さえつけた。
 もちろん抵抗したけれど左腕一つで難なく拘束されて、右手でブラジャーのホックを外された。僕は身体が硬いからフロントホックのブラジャーしか持ってない。呆気なく胸苦しい締め付けから解放されると同時に、胸を鷲掴みにされた痛みと熱く滑った感触に震えが走った。
「やっ、ああっ、ああぁ…んん…っ……」
 僕は善がり声に近い悲鳴を上げてから、慌てて声を殺した。悲鳴が聞こえたら叔母さんたちか、もしかしたら、お客さんが来てしまうかもしれない。こんな姿を見られるのは死んでも嫌だ。自分で、何とかしなければ!
 そう思うのに、泰治に片方の胸を揉まれながら乳首の先を指先でぐりぐり括(くび)られて、もう片方の胸はしゃぶられながら舌先で転がされると、もう頭が痺れて何も考えられなくなる。
 僕は自分の身体の一部でありながら、オッパイが怖くて、よく見た事もなければ、身体を洗う時ですら、出来るだけ触らないようにしてた。それでも、ブラジャーや服で先っちょが擦れたりすると、スイッチを押されたみたいに、あそこが露骨に反応してしまうのを知っていた。そんな小さな刺激だけでも感じてしまうのだから、こんな状態で普通でいられる訳がない。
「あっ、あっ、ああ……あっ、や、たい…ちゃっ…ん……」
 身体のどの皮膚よりも薄いのじゃないかと思う乳輪を、何度も何度も舌先で舐め回されて、カチカチに凝(こご)ってしまたった乳首の粒を、歯で甘噛みしながら舌で弾かれる。そんな生まれて初めての感触が、ビリビリと股間に電気を走らせて、おかしくなってしまうんじゃないかと怖くなる。だって、オナニーするより、ずっと気持ちがいいんだもの。直にあそこを触られたら……
「だめ、だめぇ…やっ、やあ〜〜」
 駄目だと言えば言うほど、泰治の行為は激しくなった。
 どっかりと泰治の腰が乗っているその下で、僕の股間は確実に成長していた。夢中になって胸に吸い付いているから気づかないのかも知れないけど、もし、触られたりしたら一発で分かってしまう。
 頭の中で “絶体絶命 ” の文字が舞い、恐怖が大きくなって行くけれど、それと同じくらい身体を走る快感も大きくなって、泰治の愛撫に逆らえなくなる。
 身体の強張りが解けて抵抗する意思がないのが分かったのか、泰治は僕の腕を拘束していた手を離し、その手で僕の頬を撫でながらキスをした。
「マキ、好きだ…」
 そう優しく囁かれ、僕の心臓が大きく跳ねた。同時に血潮が廻るように、哀しいとも嬉しいともつかない気持ちが身体中を駆け廻った。
「泰、ちゃん…」
 泰治の名前を呼んだ途端、堰を切ったように涙が溢れた。これ以上、泰治に嘘を吐けない。そう思ったら辛くて、悲しくて、嗚咽が止まらなかった。

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