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秘密のピーチパイとチェリーボンボン 〈 11 〉

「本名、村上真樹。父、村上真吾、母、明美の長男。平成六年九月十八日生まれの十七歳。年子の妹で真耶(まや)って子がいるけど、君は真樹くんだろう? だって真耶ちゃんは、ちゃんと私立の女子校へ、元気に通っているものね……」
 それ以上聞かなくても、田島が全てを知っているのは分かってしまった。
 僕の秘密を楽しそうに暴露する田島の声を、茫然自失の態(てい)で聞いていたけれど、だんだん怒りが沸き上がって来た。
 いつか、こんな日が来るんじゃないかとずっと怯えていたけれど、それが街の人たちじゃなくて、どうして縁もゆかりもないこの男に、秘密を暴かれなくてはいけないのか。この男は、僕をどうしたいのだろう。そう思うと言わずにはいられなかった。
「そこまで調べたんなら、身体を確かめるまでもないでしょう? でも、どうして、僕の事を調べたんですか? 男だと確認して、いったい何をしたいんですか!?」
 僕が突然怒鳴ったので、田島の膝の上ですやすや寝ていたジョンが飛び起きた。田島がジョンの身体を撫でてやるとすぐに落ち着きを取り戻したが、怯えた目をして僕を見るので、ばつの悪い思いで唇を噛んだ。
「ずっと言ってるじゃないか、君と付き合いたいって」
 田島はしれっとした様子で答えたので、僕はえっ、と聞き返してしまった。
「なに、言ってんの…?」
 男だという事実を突きつけておいて、こいつは何を言ってるんだろう? 僕をからかうためだけに、わざわざ戸籍を調べたのだろうか。無性に腹が立って涙は完全に引っ込んだ。田島は僕の顔を見て苦笑し、降参する時みたいに両手を挙げた。
「…まあ、話の切り出し方が悪かったよね。ごめん。謝るよ。でも、俺にとって、君の身体を確かめるのは、かなり重要な事なんだよ。要は、俺にも人には言えない秘密があるって事」
「…秘密?」
「そう。だから、二人っきりになりたかったのさ。『エーデルワイス』じゃ、そこいら辺中、聞き耳だらけだっただろう?」
 主には噂好きのマダムたちの事だろう。でも、喫茶店なんて、誰が話を聞いててもおかしくない。どこぞの御曹司らしい田島の、『人には言えない秘密』。そのフレーズに、マダムじゃなくても固唾を飲んでしまう。
「俺、ゲイなんだよ」
 田島は、カラッとした調子でそう言った。秘密を打ち明けるような深刻な雰囲気など微塵もない。
「はぁ?」あまりにさらっと言われたので、言葉が耳を素通りした。
「だから、男が好きなんだよ。まあ、女も全く駄目って訳じゃないけど、好みを言えば、男で、若いのがいいんだ。出来れば十四歳くらいまでのね。所謂、“ ショタコン ” ってヤツだ。こんな事、世間に知られたら、変態のレッテルを貼られて再起不能だわな…」
 た、確かに…。ショタコンのゲイって、男なのにオッパイがあって性別を偽って暮してる僕と、どっこいどっこいのトップシークレットだ。
 あまりの事に、僕はどぎまぎして下を向いた。ゲイという言葉が生々しかった。昨日、泰治とあんな事をした僕らも、田島と同じ部類に入るのだろうか。泰治を好きだと確認した時は、とても満ち足りて幸せな気持ちになれたのに、『変態のレッテルを貼られる』という台詞が、僕を現実の世界に引きずり戻した。
「だから勿論、そんな年端の行かない子どもに手を出した事はないよ。こう見えても、親孝行な息子なんでね。見た目が若いので手を打って来たんだ。なのに、俺の意思などおかまい無しに、勝手に結婚話を進めやがって、いい加減我慢の限界だと思ってた時に、君が現れた…。千載一遇のチャンスだと思ったよ。何しろチャンスの神様は前髪だけだって言うからね。迷わず行動したんだよ」
 聞きながら、僕の頭に疑問符が浮かんだ。言ってる事が何か変だ。田島の説明を聞いていると、田島の目には僕が最初から少年に見えていたって事? 泰治を始め、街中の人みんなが僕を女だと思って疑わないのに、どうして?
「あの、僕が男だって、いつから知ってたの? まさか、最初から?」
「いや、最初は普通に女だと思ってた。ボーイッシュな女の子だなってね。割と好みの顔だったから、惜しいなって…その程度だった。でも、河原で君の身体を見た時、胸はデカ過ぎるけど、背中は骨張ってるし、尻なんて肉が薄くて少年っぽくてさ、君となら、普通に子どもも作れそうだなと思ったんだよ」
「こ、子どもおぉ〜!?」
「そう。オヤジが孫、孫って煩いんだよ。君は俺の話を全然聞いてなかったから、覚えてないかもしれないけど、俺のオヤジ、病気で長く伏せってて、死ぬ前に孫抱きたいって、勝手に取引先の娘との縁談をまとめちゃって、困りきってたんだよ。お飾りのカミさんが出来るのは、それはそれでいいんだけど、相手の女ってのが俺の一番苦手なタイプで、抱ける自信ないんだよ…。だから、君と子ども作ってごり押ししようかなあと。それで、身元を調べさせてもらったワケ」
「そんなの、無理だから!!」
「そうだね。男だからね」
 田島はニッコリ笑って頷いたが、男だからってだけじゃない。女だったとしても、どうして好きでもない男の子どもが産めるだろう。体つきが気に入ったから自分の子どもを産め、などという田島は、はっきり言って尋常じゃない。しかも、そんな理由で勝手に人の戸籍を調べた上に、もう男だと分かっているのに、何故こうもしつこくつきまとうのか。
「無理だって分かってるのに、どうして…」
「だから、君を手に入れたいんだって。俺はゲイだと言ったろう? 君が男なのは何の問題もない。興信所の報告書を読んで驚きはしたけど、ますます興味を覚えたよ。勿論、君に子どもを産んでもらう計画は諦めた。子どもは人工授精って手もあるし、最後の親孝行と思って許嫁と結婚してもいい。だからって、目の前に現れた理想の相手を、見す見す逃す事はないだろう?」
「あっ、あんた、なに言ってんの? 僕は、ゲイじゃない。それに、もう十八歳で、アンタの理想とは違うだろう?」
 田島の自分勝手な言い分には呆れるばかりだった。腹が立つと言うよりも、薄気味悪くて怖かった。これはもうストーカーの域に入ってる。
「だから、君の身体を確かめたいんだよ…」
 田島はジョンを床の上に下ろすと、立ち上がって僕を見据えた。咄嗟に身の危険を感じ、立ち上がって玄関の方へ逃げようとしたが、僕より早く動いた田島に腕を掴まれて、持っていた携帯電話をソファの上に落としてしまった。
「言う事をきかないと、街中に、君が男だって証拠をバラまくよ。手荒な真似はしたくない。何もしないよ。だから、大人しく確かめさせて」
「ひっ…い…」
 物騒な内容を口にしながらも脅すような口調ではなかったから、泣くのは辛うじて堪(こら)えたけど、掴まれた腕を締め上げられて、僕は恐怖で腰が抜けてしまった。
 僕は男だけど、中学生になってからこっち、男らしい事な何に一つして来なかったから、暴れるとか蹴り倒すとか、腕力に訴えて逃げる自信が全くなかった。おまけに、『街中に男だって証拠をバラまく』との台詞で、僕の心は完全に砕けてしまっていた。
 ズルズルとソファに頽(くずお)れた僕に、田島は微苦笑を浮かべて「悪いけど、こっちも必死なんだよ」と言った後、キュロットスカートを脱がしにかかった。
「ちょっ! やっ、めっ…」
 瞬発力と言うのか、咄嗟に両手で田島の手を掴んで外そうとしたけど、全然びくともしなかった。田島は簡単にボタンを外すとチャックを下ろし、キュロットを下着ごと引き下げたから、あそこがポロッと丸出しになってしまった。
 恥ずかしいなんて気持ちより、何かされるんじゃないかって恐怖で、心もあそこも縮み上がる。心臓がバクバクして、息苦しくて遂に涙が溢れ出た。
 田島は、泰治とはひと味違った驚きに満ちた顔で、僕の股間を凝視していた。暫くして「思った通りだ…。小さくって可愛い」と田島が興奮した声音で囁いた。
「悪かったね!!」
 田島がすごく怖かったのに、カッと来て言い返していた。
「どうして怒るんだい? すごく可愛いって誉めてるんだけど」
「それ、全然、褒め言葉じゃない!!」
 人が気にしている事をよくも言ってくれたなと、ベソベソ泣きながら言い返すと、田島は笑いながら指先で僕の涙を拭った。
「俺にとっては褒め言葉さ。君は素晴らしいよ。体つきはそこそこいい感じに育ってるのに、性器の成長は十二歳くらいで止まってるなんて、奇跡みたいだ」
「嬉しく、ない〜〜」
「そりゃまあ、男としては気になるだろうけど、そんなの気にならないくらい、俺が愛してやるから気にするな」
「嫌だ〜〜」
「何で嫌なんだよ。大事にするよ、俺は。君、男に戻りたかったんだろ? 俺は胸なんていらないから、手術代も、腕のいい医者もすぐに用意してあげるよ」
 手術の事を聞いた途端、涙がピタリと止まった。男はみんなオッパイが好きなんだと思っていたから、率先して手術を勧められるとは思わなかった。目を見開いたまま田島を凝視すると、優しげに微笑みながら「俺のものになるなら、何だってしてあげるよ」と言った。
「オッパイ、いらないの?」
「何度も言わせないでよ。俺はゲイで、少年体型が好きなワケ。もう少し小さければ、あっても別に構わないけど、君のは大き過ぎる。男にそんな大きなオッパイはいらないし、それはずっと、君の重荷だったんだろう?」
 僕が勢い込んでコクコクと頷くと、「だったら、直ぐに取ったらいい」と言い切った。
 こんな風に言って貰ったのはもちろん初めてで、さっきまでの酷い仕打ちも忘れて、胸にぐっと来てしまった。この人、良い人かも…。
「俺と一緒に東京へ行こう。実家の両親とは仲が悪いんだろう? だから俺のマンションで暮らせばいい。胸を取ったら普通高校へ転学してもいいし、何もしたくなければそれでもいい。代わりに、俺は君の身体を好きにさせてもらう。いい話だと思わないか?」
 僕は頭を捻った。僕と恋人同士になりたいって事なんだよね? でもさっき、許嫁と結婚するとか言ってなかったか? それって、まさか……
「に、二号さんに、なれって事〜〜〜?」
「ずいぶん古い言葉を使うね。まあ、そうだけど、“ 愛人 ” の方が、格好良くないか?」
「呼び方なんて、どうでもいいよ! 僕に日陰者になれっての?」
 胸を取ったら男として堂々と、Tシャツ一枚で日の光の下を歩いてやるんだと思っていたのに、それじゃ、今と変わらなくなっちゃうじゃないか!
 そんなの嫌だと首をブンブン横に振ったら、片手でガシっと顎を掴まれた。
「一応、誘った形は取ったけど、本当は君に選択肢なんてないんだよ。俺、さっきも言ったよね。言う事をきかないと、君が男だって事をバラす。君だけじゃなく、君の叔父さんと叔母さんもこの街には住めなくなるけど、いいのかな?」
 僕は再び絶望のどん底に突き落とされた。そうだ、騙されちゃいけない。コイツは良い人なんかじゃない。ただの脅迫者だ。恐怖心が一気に蘇ったけど、平常心を取り戻していた僕は、
「だったら僕だって、アンタがショタコンのゲイだって、バラしてやる!!」と言い返したが、その途端、股間に激痛は走った。
「痛いぃ!!」
 田島が僕の大事な所を握り締めたのだ。大声を上げて身を捩ると、田島が上から僕の身体を押さえつけ、耳元に顔を寄せた。
「あんまりいい気にならない方がいいよ。俺は気が長いつもりだけど、馬鹿には寛容になれない。何度も同じ事を言わせるんじゃないよ…。それに、俺はとても慎重な質(たち)でね、喩え興信所を使ったとしても、証拠なんか出て来やしないよ。だから、君がいくら真実を告げても、こちらが否定すれば誰も信じないさ。逆に名誉毀損で訴える事も出来る。俺に従うのが、賢い人間の取る道だよ、マキちゃん」
 怒りを含んだ低い声音で囁かれ、僕は震え上がるのと同時に、痛みに泣きながら「止めて!」と訴えた。すると足元の方でジョンがけたたましく吠え立てたので、田島は握り潰しそうな程強く握っていた僕の一物から手を放した。
「ああ、ジョン。大丈夫だよ。虐めてる訳じゃない」そう弁解するようにジョンに話かけた。そして僕にも優しく語りかけた。
「ジョンは君を気に入ったみたいだ。良かったね。俺、ちょっと興奮しちゃったよ。大丈夫、本当に気は長い方なんだ。そんなに怖がらなくてもいいよ。素直にしてれば、うんと可愛がってあげるよ。俺は上手いよ。天国を見せてあげる」
 怖い! 怖すぎる〜〜。
 何なんだ、この人…。優しかったかと思うと急に恐ろしくなったり、まるで二重人格者だ。それだけでも怖いのに、どうして僕がこんな目に遭わなきゃいけないんだろう、何でこんなヤツに目をつけられちゃったんだろうと思うと、己の不運が忍びなく、どう仕様もなく泣けて来た。
 だけど、僕は必死で声を殺して泣き止もうとした。あんまり泣いて鬱陶しいと、田島にキレられて殺されちゃうかもしれない。
「ああ、ごめん。そんなに泣かないでよ」
 田島は僕の涙を指で拭いながら、頬を撫でたり、瞼にキスしたりする。誰のせいだよと心の中で叫びつつ、落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせ、どうしたらこの状況から逃れられるか、必死で考えを廻らせた。
「堪んないなぁ…。本当に小さな子どもみたいで、可愛いね…。今日は確かめるだけのつもりだったけど…。いいよね、気持ち良くなるんだし…」
 田島は勝手なひとり言を呟きながら僕の身体を押し倒し、あそこを触った。また痛くされるのかと反射的にビクッとして、全身が硬直した。
「いっ、や…」と辛うじて言えたけど、喉まで硬直して上手く声が出せない。
 予想に反して田島の手は優しかった。柔らかく、まるで鳥でも撫でるように指先を動かしている。少しだけ緊張が緩んだけど、喉は引きつったままで嗚咽も出ない。短く息を吸うのに必死で、目の前が暗くなる。
 唇に熱いものが触れて、口の中にヌルっと舌が入って来た。息苦しくて余計に口を開けてしまったから、田島の舌が奥まで入り込んで、何か別の生き物みたいに動き回る。裏顎をくすぐったり、歯列をなぞったり、僕の舌を絡めとって扱いたり。泰治のキスより激しくはなくて、余裕がある分もっといやらしい感じがした。
 相変わらず、下は撫でられるだけで扱かれたりはしない。それが、身体の緊張を解して行く代わりに、その部分の緊張を高めて行く。冷や汗を沢山かいて身体が冷えているから、そこに熱が集中するのが嫌でも分かってしまう。
「…そうだよ。力抜いて、何も考えなくていいんだよ」
 田島は僕の状態が分かっているみたいで、笑いを含んだ落ち着いた声音で囁いた。どれだけ経験豊富なのか知らないけど、ガッついた様子は微塵もない。
 他人とのふれあいを、昨日初めて経験したばかりの僕には、相手が誰でもそうなるのかは分からない。でも、泰治とした時みたいな興奮は覚えない。自然現象で勃起した、としか言いようがない。
 でも、このままだったら泰治とした事を、いいや、それ以上の事をされてしまう。嫌だったし、悲しかった。でも、怖くて身体に力が入らないし、抵抗する気力も湧いて来ない。
 田島の唇が首筋を辿って、舌が鎖骨をなぞって行く。ざわざわする感触に目を瞑り、ひたすら泰治の事を思った。泰治としてるんだと想像すれば、耐えられるだろうか。
 逃げ出す事を諦めてしまったためか、この状況から逃避する術を求めた。でも、やっぱり最後までされてしまったらと思うと、悲しくて、苦しくて…。だって、泰治とだってまだなのに。昨日、初めてだったのに。ごめん、泰治、ごめんね……。
 涙が溢れてこめかみを伝い落ちた。ふと、何かを感じて目を開けた時、僕の頭のすぐ傍に落ちていた携帯電話が激しく振るえ、耳を刺すような電子音が鳴り響いた。それは一つだけじゃなく、田島の腰の辺りからも聞こえて来た。
 田島は、ちっ、と舌打ちして僕の身体を離して立ち上がったので、僕も慌ててキュロットとパンツを履き直しながら携帯を取り、部屋の隅に走って行ってボタンを押した。
「もしもし?」
「マキ、俺だ。大丈夫か?」
 泰治だった。画面を確かめもしないで出たから、てっきり叔母さんか叔父さんだと思っていた。僕はその声にほっとして、「泰ちゃん!」と涙声で叫んでしまった。
「どうしたんだ? 何かあったのか?!」
 泰治は僕の声に不振なものを感じたらしく慌てたように聞いたので、咄嗟に「何でもないよ。大丈夫」と答えながら振り向いて、そっと田島の方を窺った。田島は僕とは反対側の窓の方へ移動し、電話を続けていた。
「今、あの野郎にも、叔母さんが連絡入れてるはずだ。そっちに着いてから二時間経ったら返せって約束してたらしい。俺、今車でそっちに向かってる途中だから。もうすぐ着く。用意して道に面した所で待ってろ」
「うん、分かった。待ってる!!」
 嬉しくて思いっきり大きな声で返事をして電話を切った。これ以上田島と一緒に居たくなかったから、泰治が迎えに来てくれてるなんて、夢みたいに嬉しかった。危機一髪を救ってくれた叔母さんにも、心の底から感謝した。
 振り向いて田島を見ると、田島もこちらを見ていた。
「王子様が、迎えに来てくれるって?」
 皮肉そうに唇の端を上げて笑っている。僕が頷くと、「まあ、それも来週までの話だ」と訳の分からない事を呟いた。
「今、君の叔母さんに交際を断られたよ。『マキは身体が弱くて子どもが作れない』っだってさ。笑っちゃうね。そらそうだ。男なんだから」
 田島はケタケタと声を上げて笑った。田島の身体からは怒りが溢れていて、陽炎みたいに空気をゆらゆら揺さぶって見えた。迂闊に返事も出来なくて黙っていると、「『もう、店にも来ないでくれ』とさ。失礼しちゃうよな、客に向かって…。だから、君から来いよ。来週」
「えっ?」
「選択肢はないと言ったが、考える時間をやるよ。君の秘密は家族ぐるみで守っている訳だろう? 俺だって人さらいをする訳には行かないからな。君を東京へ連れて行くには、どの道、君の家族の了承は取らなきゃならない。だから、きちんと話し合って、来週、イエスかノーか、答えを決めてここへおいで」
「答え…」
「そうだ。イエスならその日のうちに君をもらう。そして東京へ連れて行く。ノーなら、君の秘密をバラす算段を取るまでだ。言っておくけど、俺は恥をかかされた相手に容赦しないよ。夜逃げの準備でもしておくんだね」
 田島は言いながら、足元へコトコト寄って来たジョンを抱き上げて頭を撫でた。慈愛に満ちた顔でジョンを可愛がりながら、空恐ろしい事を口にする男だ。
 猶予を与えると言うけれど、死刑執行の期日が伸びただけとしか思えなかった。僕はガクガク震えながら、早く泰治が来てくれないかと、その事ばかりを思い続けた。

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