INDEX NOVEL

放蕩息子の恋愛 〈 9 〉

 牧師館は灯りが消えて静まり返っていたが、教会の中はまだ暖かかった。
「イヴの夜に行われる礼拝は、クリスマスに入って最初の礼拝になるんだよ。だから、熱心な信者さんのために8時に礼拝をしていたんだ」
「だから、まだあったかいんだ…」
 アルベルトは20年前と同じように、祭壇のロウソクに火を灯した。時刻は午前を回っていて、真はもうクリスマスなんだなと思いながら、祭壇に一番近い席にコートを着たまま腰を下ろした。
 アルベルトもその席にやって来ると、長椅子の両端に付いている燭台のロウソクにも火を灯し、真の隣りに腰を下ろした。
「懐かしいね…。あの時、教会に明かりが点いているのを、不審に思ったアルのお父さんに見つかって、連絡を受けた僕の母さんが飛んで来たんだよね。寺に戻ってからも叱られて、正月早々丸刈りにされちゃったんだ。アルも怒られたんじゃないかと、ずっと心配だった。幼稚園が始まったらまた会えると思ってたのに、もう引っ越してしまった後で…悲しかったよ」
「うん…。僕も真の事が心配だった。叱られて、泣いているんじゃないかって。僕の方は怒られはしなかったけど、もう無理に人を誘わないよう誓わされた。でも、そんな事はどうでもよくて…。真に会わせてもらえずに引っ越したのが、ずっと心残りだった」
 お互いに同じような事を思っていたのだと、見つめ合って笑った。それから黙って祭壇のロウソクが燃えるのを眺めていた。
 真はまるで時間が巻き戻されたようだと思った。違うのはアルベルトの口から聖書の言葉は語られず、辺りはしんと静まり返っていた。
 気詰まりではないが何かしら張り詰めた空気が流れていて、真はアルベルトを静かに窺った。しばらくして、アルベルトが徐(おもむろ)に口を開いた。
「今日…ここに誘ったのは、お祈りをする為じゃなくて、真に僕の “ 告白 ” を聞いて欲しかったからなんだ」
「告白って…それは、告解(こっかい)…じゃない、悔い改めをするって事?」
「…うん。真に話すのが怖くて、隠している事…。そして嘘を吐いている事があって…。だから、本当の事を話したくて呼んだんだ。聞いてくれる?」
「うん…」
 真はアルベルトの緊張した面持ちに釣られて姿勢を正した。アルベルトは膝の上に手を組んで目を閉じると、ぽつりぽつりと話し出した。
「前に牧師館で母が少し話したけど、僕はこの外見のお陰で、小学生の頃イジメに遭ってね。仕方なく中学からインターナショナルスクールに行ったんだ。そこで、自分のもう一つの血を強く意識するようになった。僕は日本を愛していたけど、自分の生きて行くべき場所は、ここではないんじゃないかと。だから一人、スウェーデンに渡ったんだけど…。そこでも僕は異邦人だった。それでも、真に話した通り、向こうへ行って無駄ではなかった。自分がどういう人間か、僕自身がよく分かったから…」
「それは、この間話していた…」
「そう。僕が生まれながらに持っている気質…、性(さが)…だね。僕は……」
 アルベルトは途中で辛そうに口籠ったが、また瞼を固く閉じると思い切ったように告白した。
「僕は、同性愛者なんだ」
「…えっ? …えええっ?」
 真は一拍置いたあと素っ頓狂な声を上げた。
「ごめん…気持ち悪いよね」
 アルベルトは項垂れて苦しそうに呟いた。その苦渋に満ちた表情に真は慌てて弁解した。
「あっ、ちょっと驚いただけ!! 大丈夫、そんな事思わないよ! 全然平気! だって僕の叔父もそうだし!!」
「ええっ?」
 思いがけない真の暴露に、今度はアルベルトが驚きの声を上げた。真は自分でも余計な事を言ったと思い、慌てて言い募った。
「前に話したよね!? 母の弟なんだけど、昔から女の人が全く駄目で、お祖父ちゃんは僕の母さんに婿養子をとって、家業の葬儀屋を継がせるつもりだったんだって。それを父さんが横から掻っ攫(さら)ってちゃったから、結局叔父が跡を継いだんだよ。未だに独身で跡取りもないけど、優しくてとてもいい人だよ。大好きなんだ。だから、家を出ようと思った時、本気で叔父の養子になるつもりだった…」
 だから偏見なんて持ってないよと力説する真に、アルベルトは「道理でね…」と呟いた。
「免疫があるんじゃないかとは思ってたけど、僕はてっきり…」
「えっ?」
 アルベルトは独り言のように小声で呟いたので、真には最後まで聞こえなかった。
「いや、何でもないよ。驚いたけど、少し気が楽になった…」
「よかった…」
 アルベルトが小さく笑ったので、真もほっとして肩の力を抜いた。
「真の叔父さんは…、いつ頃、自分がそうだと気づいたんだろう?」
「えっと…高校生の時って言ってたかな…」
「じゃあ、僕と同じだ。いや…僕は、もっと前から気づいていたけど、ずっと自分自身を誤魔化していた。でも、スウェーデンでの生活が、はっきり自覚させたんだ…」
 アルベルトは高校に入ってすぐセックスを経験した。相手は同じクラスのスウェーデン人の女の子だった。
 スウェーデン人の恋愛感は日本人とは少しばかり違っていて、『付き合ってください』と告白して付き合う事はほとんどない。気が合うから、顔が好みだから…きっかけは何でもいい。気になる子がいたらデートに誘う。
「彼女も『日本人と話してみたかった』と言って僕に近づいて来た。だからかな、僕は彼女を好きでも何でもなかったけれど、身構えずに応じられた。2回デートして、3回目でセックスした。相性が良ければ、そのまま恋人になったんだろうけど、しっくり来なくてすぐに別れた。
 その後すぐに、彼女の友だちだという一つ年上の男の子に声をかけられた。彼は臆面もなく自分はゲイだとはっきり告げて、彼女が僕を紹介した時から狙ってたと言った。まるで女の子に言うように、デートしようと軽く誘われて…。驚いたけど、千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンスにも思えた。だからやっぱり、好きでも何でもなかったけれど、彼の誘いに応じたんだ…」
 目を見張る真に、アルベルトは取り繕うように「スウェーデンではゲイは珍しくないんだ」と説明した。
「スウェーデンは、ちょっと他では考えられないくらいリベラルな国家でね、ゲイやレズビアンが市民権を得てごく普通に生活している。だからゲイカップルに育てられている子どもなんてざらにいて、彼も父親とその恋人という男性と3人で暮らしていた。トルコ系で黒髪に褐色の肌をしていて、ちょっとエキゾチックな感じの子だった。彼は即物的にセックスを求めて来たけど、慣れている分具合が良かった。それが男と寝た最初の経験だった」
 アルベルトは淡々と語ったが、真は息が出来ないくらい激しい胸の痛みに襲われていた。アルベルトが誰かと愛し合った事実は、それが過去でもショックだった。
 アルベルトをどう思っていたのか、はっきり分かったけれど、だからと言ってどうする事も出来ない。真は黙ってアルベルトの告白を聞いていた。
「彼とは長く続いたけど、彼に新しい恋人が出来たので別れる事になった。彼の事は嫌いじゃなかったけど愛していた訳でもないから、精神的なショックはそれほどなかった。それより、肉体的に深刻な状態に陥った。その後、どんな女の子とセックスしても満足出来なくて……。それで、はっきり認めざるを得なくなった。僕は女より、男とする方が合ってるんだってね…」
「でも、だったらどうして、葉月くんが…」
 なじるような声が出て、真は慌てて口を閉じた。
 話を聞きながら、ずっと一つの事を考えていた。高校生の時にゲイだと自覚していながら、どうして女性と結婚などしたのだろうと。
 性嗜好を隠すための偽装結婚だと言うなら、道義的な事は別として納得がいく。でも、20歳で子どもを持つのは普通でもハードルが高いはずだ。
 単純に子どもが好きでほしかったのか、それとも出来てしまったからか。でも、アルベルトは葉月を大切にしている。だとしたら、嗜好を覆(くつがえ)すほどに、その女性(ひと)を愛していたから…?
 そう思うと、真は血が沸騰しそうなほどの嫉妬を覚えた。
 アルベルトは俯いたまましばらく黙っていたが、深いため息を吐くと「葉月は…、望んでできた子じゃないんだ…」と呻くように言った。
 真が驚いてアルベルトを見ると、彼は両手で顔を覆っていた。
「真に軽蔑されるのが怖くて言えなかった。…でも、敢えて告白する。葉月の母親は、僕の大切な人によく似ていた。だから、彼女に迫られた時、拒めなかったんだ…」
 真の心臓が一際大きく波打った。
 それは、一体誰なんだろう。当然自分の知らない人に違いない。訊きたくないと思うのに、「大切な…ひと…?」と口からこぼれていた。
「うん…。僕のたった一人の偶像(アイドル)…。苛められて哀しい時、一人で寂しい時、その人を想って乗り越えた。神様なんか疾っくの昔に僕の中から姿を消したけど、彼が健やかであるように祈りを捧げる事は止められなかった」
「彼…?」
 思わず呟いた真を、アルベルトは縋るような目で見つめた。
「真、君の事だよ…」
「僕…? う…そ…」
「嘘じゃないよ。ずっと君が好きだった」
「だって…」
 二人が一緒にいたのは、6歳の時のたった一ヶ月の話だ。それから20年もずっと思い続けたと言うのだろうか。確かに自分も忘れたりしなかったけれど、俄(にわ)かには信じがたい。
「確かに君と出会った時は、まだほんの小さな子どもだったけど、君は僕の初恋の人なんだ。だから忘れる訳がない。たった一枚しかない君の写真を眺めては、今頃どんな風に成長しただろうって、君の姿を想像していた…。それは僕にとって趣味みたいなものだった。イタイよね。自分でも気持ち悪いと思うよ…」
 アルベルトは自嘲気味に笑った。真はそんな事ないと首を振って見せたが、アルベルトの目は暗い窓の外を見ていた。
「言ったよね。もう理屈じゃ説明つかないんだ。真は僕の全てだったから、僕がスウェーデンで付き合った男の子は、全員黒髪で華奢なタイプで…、僕が勝手に作り上げた真のイメージに近い人ばかりだった。だけど、誰と付き合っても満足出来ない。当たり前だよね、誰も彼も虚像に過ぎないのだから…。そのまま3年うかうか過ごしてしまって、大学進学の時に随分悩んだ。ゲイの僕には、スウェーデンの方が断然生きやすいはずだけど、結局、日本に戻って来た。
 そしてすぐ、君の住む円光寺を訪ねた。君の姿を一目確かめて、僕の想像と違っていれば、諦めがつくと思ったんだ。でも、お寺の境内を竹箒(たけぼうき)で掃(は)いている君を見た時、僕は震え上がった! だって君は、僕の想像した通りの姿をしていたんだ!! あの時の事は忘れられない…。僕の中ではっきりと、真の姿が像を結んだ瞬間だった」
「どうして? どうしてすぐ声をかけてくれなかったの?」
 こんな熱烈な告白の言葉を受けて、真の心も震えていた。
 大学に入ったばかりの頃なら、もう8年も前の話だ。どうしてその時、声をかけてくれなかったのか。そうすれば、アルベルトが結婚する前に出会えていたはずなのに。
「だって…、真が僕を覚えているか分からなかったし、覚えていたとしても、君が男を好きになるとは思えなかった。それに、君はお寺の大事な跡取りだと分かっていたから、君を巻き込む事は罪悪だと思った。だから、近づかないと決めたんだ。でも、内心は未練たらたらだったから、大学で君によく似た面差しの葉月の母親に付き合って欲しいと言われた時、断りきれなかった。何度かデートしたら、彼女から迫られて…。すごく必死で…だから…寝ないと決めていたのに、つい…一回だけ寝たんだ。そうしたら…」
 アルベルトは言葉を切り、口元に手を当てた。
「まさか…、妊娠したの?」
 真が半信半疑で問うと、アルベルトは小さく頷いた。真は驚きで言葉を失った。
「僕も、その一回で妊娠するなんて信じられなかった。でも、油断して避妊してなかたんだ。スウェーデンでは高校生でもみんなピルを飲んでいたからね…。ひどい話だけど、僕は彼女に堕ろしてくれるよう頼んだ。結婚なんてする気はないし、子どもなんて育てられる訳がない。でも、聞き入れてもらえなかった。彼女は僕を愛していると言い、結婚を迫られた。話し合いは膠着状態で、彼女のお腹が目立ち始めた頃、当然向こうの親から責任を求められ、僕の両親にも露見して、責任を負うのは当然の義務だと言われた。こうして僕は、過ちによって愛してもいない家族が一遍にできたんだ」
「それで、結婚したの?」
「うん…。僕の行ってた大学は留学生が多くて、結婚している人は珍しくなかった。僕はそれまでと同じように大学に通い、彼女は一年休学して、家事と育児に専念した。でも僕らの関係は最初から破綻していて、普通の夫婦生活を送れなかった。僕が彼女に対して全く不能になってしまったから。だけど、彼女は諦めなかった。僕にも子どもにもよく尽くしてくれたよ。でも、そんな生活が長く続く訳がない…。葉月が1歳になった秋に、彼女は葉月を置いて出て行った」
「嘘! 母親なのに、そんな無責任な…」
 真は思わず大きな声を出したが、アルベルトは首を振って「彼女だけのせいじゃない」と言った。
「悪いのは僕だ。僕は葉月を愛せなかった。憎いとすら思った。僕は育児に協力的じゃなかったから、彼女の負担は大きかった。子育てもしないし、セックスもしない夫なんて、彼女じゃなくても耐えられないよ。勿論、出て行かれて途方に暮れたよ。僕だって逃げ出したかった。でも、全ては自業自得だ。
 九州にいる両親に頼りたくはなかったけど、ネグレストするよりはマシだと思って連絡を取った。当然、どうしてこうなったか追求されて、僕は両親に、自分の性癖を白状せざるを得なかった。父は同性愛については何も言わなかったが、罪深い偽装結婚は解消すべきだと言い、僕らはすぐに離婚した。そして、僕が大学を卒業するまで両親が葉月を育ててくれたんだ…。僕は父親としても失格だし、人間としても最低なんだよ…」
 真はその告白の重さに言葉を失い、項垂れて両手で顔を覆っているアルベルトを呆然と眺めた。
 自分の罪を告白し悔い改めるのは、神に赦しを乞う事だ。でも、真は牧師ではないし僧籍も持っていないから、神への証し人には相応しくない。アルベルトはどうしてそんな自分に、こんな辛い告白をしたのか。
 それはきっと恐れ多い事だけれど、その罪を神ではなく真に受け入れて欲しいと望んでいるからだろう。だったら喜んで受け入れようと思った。
 アルベルトのどんな闇の部分を知っても、もう彼を嫌いになれない。だって自分は、アルベルトを愛しているのだから。
 真は早くその苦悩を取り去ってあげたくて、『もういいんだよ』と口を開きかけたが、アルベルトに遮られた。
「軽蔑するだろう?」
「しないよ」
 真は強く首を振って否定したが、アルベルトも同じように首を振って受け入れない。
「いいんだ。前に、真は幻滅したかと訊いたけど、僕の方こそ最低で、幻滅されても仕方ない人間なんだ。…いや、幻滅して欲しいんだ。罵って、軽蔑して、嫌いになって欲しい」
「どうして? そんな事しないし、できないよ…」
「その方が…君に嫌われた方が、諦めがつく。僕はもう…真の傍にいられないから」
「どうして?!」
 真は焦ってアルベルトの腕を掴んだ。アルベルトは真を見て辛そうに眉を寄せた。
「今日、いや…もう昨日か、父に言われた。君を巻き込んではいけないと。真を好きなら、真の全うな人生の幸せを望むものだと。僕だって! 最初はそう思っていた…。偶然君が教会に現れた時、衝動的に君の元へ走ってしまったけど、自分の気持ちを鎮めて、友だちとしてならいつまでも傍にいられると…」
 アルベルトは一旦言葉を切り、自嘲気味に顔を歪ませた。
「出来る訳がなかった。本当の真を知れば知るほど…好きになった。真を見れば、触りたくなる。傍にいれば…抱きしめたくて、キスしたくて…狂いそうだった!!」
「あ…」
 真は胸が高鳴って苦しかった。自分だって同じだと伝えたかったが、喉が震えて声にならない。
「もう我慢できないんだ。だから今日限り、真にはもう会わない。…前はお別れを言えなかったから、今度はきちんと、最後のお別れを言いたくて…」
「いや、だ…。そんなの…」
 自分の気持ちに気づいたばかりなのに、まさか別れの言葉を聞くとは思わなかった。真は強くアルベルトの腕を掴んだが、アルベルトは真の方を見ようとはせず、自虐的な言葉を繰り返した。
「真は分かってないんだよ…。身近にゲイの人がいるから平気だと言うけど、大抵の人は自分が恋愛対象じゃないから傍観者でいられるんだ。でも、それが自分の身に降りかかって来たら話は別だよ。そのうち必ず嫌悪するようになる。…そんな真を見たくないんだ。告白したのは許される為じゃない。真に嫌われて、潔く諦めたかったからだ」
 アルベルトは言うだけ言うと立ち上がろうとした。真は掴んでいた腕に咄嗟にしがみ付いて引き止めた。
「真…?」
「僕の返事も聞かないで、諦めるの?」
 戸惑うアルベルトを見上げ、必死で言い募った。
「僕も、アルを見ると触りたくなるよ! アルと一緒にいると、胸がどきどきする…。いくら彼女いない暦が26年だからって、それがどういう気持ちか分かってるつもりだよ」
 アルベルトは目を見張って真を見つめた。やっと自分の顔を見てくれたアルベルトに安堵の笑みを向けると、アルベルトは息を詰めた。
「20年前、突然会えなくなって…本当に哀しかったんだよ。やっとまた会えたのに…あんな思いはもうしたくない。アルと一緒にいたい。僕もアルと同じ気持ちだよ」
「それは、思い違いだよ…」
 アルベルトは詰めていた息を吐いて苦笑いすると、そのまま真の手を解いて立ち上がり、祭壇のロウソクを消しに行った。辺りは一段と暗くなり、静かになった。アルベルトは席に戻ってくると、真に手を差し出した。
「送って行くよ」
「アル…」
 全てを否定してしまうアルベルトに、もう本当に会わないつもりなんだと堪らなくなった。真は差し出されたアルベルトの手を掴み、勢いよくその手を引っ張った。
 アルベルトの体は傾いで真の上に倒れそうになるのを、座席の背もたれに手をついて耐えた。真は近づいたアルベルトの大きな胸にしっかりと抱きついて言った。
「僕も、アルが好きだよ。それはアルと同じ気持ちだよ。思い違いなんかじゃない。教会で再会した時から僕も、アルの事ばかり考えてる。愛してるんだ。だから…」
 拒まないでと…ありったけの気持ちを込めてアルベルトの胸に囁いた。
 アルベルトは「あ…」と吐息をもらして震えると真の体を掻き抱いた。それでも、半信半疑で「真…ちゃんと、本当に、意味分かってる?」と小声で訊いてくる。
「分かってるよ。だから…」
 顔を上げてキスしてほしいと言う前に唇が塞がれた。
「ん…、ふっ、ん…」
 アルベルトは真の頭を押さえ、髪をかき混ぜながらどんどん深いキスをする。舌とはいえ、初めて他人の肉体の一部を受け入れた真は、あまりの刺激に腰が砕けてしまった。
 それに気づいたアルベルトが唇を離すと、真は赤い顔で金魚のようにぱくぱくと喘いだが、胸にしがみついて離れようとしなかった。
「真、こんなキスは序の口だよ…。僕は君を抱きたいんだから、もっと、もっとすごい事を強要するよ…」
 いいの? と試すような顔で訊かれ、真は恥じらいに濡れた瞳を向けて、「もっと、して…」と強請った。今度はアルベルトが真っ赤になった。
「駄目だよ! もう、これ以上は…。教会の中なのに、理性を保てる自信がない…」
「じゃあ、アルの部屋に行く…」
「真…、誘ってる?」
 戸惑ったように顔を覗き込んで訊くアルベルトに、真はしっかりと頷いて、「だって、今日はクリスマスだもの…」と答えた。
 アルベルトは一瞬きょとんとした後、ふわりと優しく微笑んで真の頬にキスをした。
「そうだね…。20年前と同じくらい、忘れられないクリスマスの夜にしよう…」
 ぎゅっと抱きしめられたまま耳元で囁かれ、真も熱くなる頬をアルベルトの頬につけ、「うん…」と小さく頷いた。

NEXTは18禁ページです。18歳未満の方と性描写が苦手な方は、上部よりNOVELでお戻りください。

BACK [↑] NEXT

Designed by TENKIYA