INDEX NOVEL

放蕩息子の恋愛 〈 10 〉

※ 性描写があります。18歳未満の方はお読みにならないでください。

 真はアルベルトの寝室のベッドに座って、落ち着きなく足をブラブラさせながら、アルベルトが風呂から出るのを待っていた。
 先刻教会で聞いたアルベルトの懺悔は、図らずもお互いの気持ちを確かめる事になり、逸る気持ちでアパートへ来たはいいけれど、冷えきった部屋へ入った途端、何故だか冷静になってしまった。
 それはアルベルトも一緒だったようで、「寒いね…」と慌てて部屋中の暖房をつけて回り、玄関につっ立っている真をコタツに入るよう促したり、やかんを火にかけたりと忙(せわ)しなかった。
 真はこのまま気まずい空気に流されて、うやむやになってしまうのは嫌だった。背中を向けてなかなか自分を見ないアルベルトに、「先にお風呂入るね」と言って返事も聞かずにさっさと浴室に入った。
 湯船の縁に手をついてお湯が溜まるのを待ちながら、「する! 絶対するぞ〜!」と小声で何度も呟いた。いつもは全く自信のない真だけれど、今は『押せばいける!』と確信していた。
 だって、アルベルトは自分が好きなのだ。見るからに貧相で男としての魅力に欠けた自分の、どこがいいのかは甚だ疑問だけれど、胸中を吐露した言葉に嘘はないと信じられた。ただの友だちのままなら、自分から離れるなんて言う必要はなかったからだ。
 それに、自分もアルベルトが好きだ。だから、逃げ腰のアルベルトを逃さないためには、もう押し倒すしかない!!
 真は勢い込んで体中ごしごし洗い、鼻息荒く出てくるとアルベルトを浴室へ押し込み、自分はオイルヒーターで温もった寝室で、獲物が出て来るのを今か今かと待っていたのだが…。
「何か、遅くないか…?」
 待ちながら、あらぬ妄想に耽っていたから時間が経つのを忘れていたが、時計を見るともう午前3時を回っていた。
「ウソ! もう1時間経ってるよ?」
 耳を澄ませてみるけれど、扉の向こうからは何の音も聞こえない。
 そろりそろりと部屋を出て、真向かいのサニタリーを覗いたが、浴室の電気は消えている。慌てて居間の方へ出て行くと、キッチンの前の大きな仕事机のスタンドだけ点けて、アルベルトは椅子に座ってベランダの方を向いていた。
 暗いガラス窓に映ったアルベルトはスウェットの上下にカーディガンを羽織り、ぼうっと椅子の肘掛けに片肘をついて頬杖していた。一体いつ風呂から出たのか分からないが、濡れた髪は毛先が乾き始めていて、くせ毛特有の細かいウェーブが出ていた。
 きっと真が出て来なければ、心ここにあらずと言った風情のまま、朝まで石みたいに椅子に座っていたのかも知れない。
「アル…?」
 ひとが一大決心して待っていたというのに何なんだ…と、気が抜けたような声で呼ぶと、アルベルトはビクリと肩を振るわせて振り返った。
 その顔が、暗い中でもひどく緊張しているのに気づいて、「もう、駄目だな〜アルは!」とわざと大げさに声を上げた。
「髪の毛、ちゃんと乾かしてないじゃないか! そのままじゃ、風邪引いちゃうよ!」
 そう言いながら近づいてアルベルトの手を取ると、彼が何か言いかけたのを無視してグイグイ寝室へ引っ張って行き、ベッドに座らせるとドライヤーを取りに浴室へ行った。
 そのまま寝室へ戻る前に、点けっぱなしのデスクライトとガスストーブを消した。ふと、机の上にアルベルトが飲み残したお酒のグラスを見つけ、一気に煽った。焼酎のロックだったらしく真にはきつかったが、景気付けにはちょうど良かった。
 寝室へ入るとアルベルトは手持ち無沙汰な様子で、大きな体を小さく丸めてベッドに座っていた。その姿が子どもみたいで可愛らしく、真はクスリと口元だけで笑い、すぐにドライヤーでアルベルトの髪を乾かし始めた。
 いつも玄の髪を乾かしてやるように、慣れた手つきで髪を梳いてやると、アルベルトは気持ち良さそうに目を閉じた。
「髪、やっぱりクセが残ってるんだね…」
「うん…」
「このまま自然乾燥させたら、昔みたいにクルクルになっちゃうの?」
「昔ほどじゃないけど、ちゃんと乾かさないとひどい事になる…」
 クルクルの鳥の巣みたいになったアルベルトの頭を想像して真がクスクス笑うと、アルベルトが真の胸にしがみついた。真はドキドキしながら何でもない風を装って髪を乾かし続けた。
「真は…やっぱり、昔のままだね…」
「そう?」
「覚えてない? 幼稚園の時も、隣の組から潜り込んで来る僕のために、真は色々世話を焼いてくれたんだよ。お昼寝の枕を調達して来たり、お菓子も僕の分を貰っておいてくれたよね」
「そうだったっけ?」
 その辺の記憶はかなり曖昧になっていて首を傾げたが、アルベルトは「そうだよ」と言って真の胸に頬擦りした。
「僕はあの頃から『金色の目が気持ち悪い』って仲間外れにされていてね。見かねた先生が、お隣の組にクリスマスの話が大好きな男の子がいるよって、教えてくれたんだ」
「そう、なの?」
「あの時、すごい勇気を出して話かけたのを、今でもよく覚えてる…」
 初めて聞く話に真は目を丸くしたが、確かにアルベルトの目は、昼の光に照らされると、今よりもずっと金色に近い色をしていたのを思い出した。でも…
「僕は、すごく奇麗だと思ったんだよ…」
 真はドライヤーを止めてその柔らかい髪を撫でながら、「目も髪の色も、奇麗だとしか思わなかった」と囁いた。
 アルベルトは顔を上げ、真の背中に回した手を腰にずらして真の体を引き寄せた。バランスを崩した真は、手にしていたドライヤーをベッドの上に落として、アルベルトの肩に手をかけた。
「アル…」
「真、乗って…」
 えっ、と思うものの、ぐいぐい体を引き寄せられ慌ててアルベルトの膝の上に股がった。
 何だかとても恥ずかしい格好だと意識した時には唇を塞がれていて、先刻まで渦巻いていたアルベルトを押し倒すなんて勢いは、遥か彼方へ飛んで行ってしまった。
「…んっ…ふ…」
 アルベルトの唇は真の唇に優しく吸い付いて、下唇と上唇を交互に甘噛みし、しゃぶり付き、また音を立てて吸い付いては離れてを繰り返す。
 柔らかくて気持ち良くて堪らないのだが、こんなキスをされるのは先刻も含めて初めてだから、されるがままアルベルトの首にしがみついていた。
 アルベルトの手が大胆さを増して弄(まさぐ)るように背中を撫でる。真の体は火が点いたように熱くなった。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう…!
 股間が変化するのを感じて、真は激しく動揺した。
 他人と肌を合わせたのはたった一回だけだし、それだって好きな人とした訳じゃない。あまり良かった記憶もなくて、少し心配だったのだ。なのに、ただ抱き合ってキスしただけで、恥ずかしいほど感じてしまう。
 震えながら喘ぎ始めた真を、アルベルトがぐっと引き寄せた。そのせいですっかり変化した股間がアルベルトのお腹にくっ付いてしまい、反射的に腰を浮かせて離れようとした。
「イヤ?」
 アルベルトが悲しそうな顔で窺うように訊くので、誤解されないよう急いで「違う」と答えた。
「嫌じゃないよ。してほしい…けど、僕は…した事がない……訳じゃないんだけど…、でも、どうやったかよく覚えてなくて…。だから、上手く出来なかったら、ごめんね…」
 真は口下手なくせに切羽詰まると余計な事を言ってしまう。アルベルトは瞬間的に動きを止め、「彼女、いないんだったよね…」と訝しげに訊くので余計に慌ててしまった。
「いないよ! 付き合った事なんて一度もないよ!」
「真…」
 ぶんぶん首を振り続ける真の顎をアルベルトの右手が掴んで止めさせた。そのまま真っ直ぐ瞳を覗き込んで、「じゃあ、男としたって事?」と訊いた。
「えええっ?」
 何で、どうしてそうなるんだと思ったが、アルベルトは悩ましげな表情(かお)で訊いて来る。
「真は免疫あるなって、前から思ってた。最初は真もそうなのかと期待したけど、違うって分かったし、変だなと思ってたんだ。だから、さっき聞いたゲイの叔父さんがいるから驚かないって説明は、尤もな気がしたけど…ちょっと違うよね? 何て言うか…真は男に触られ慣れてる。僕が必要以上にベタベタ触ったって、真は普通に受け流してて…あしらうのが上手いっていうか、それって…」
「違う! 違うって! そんな事ないよ!」
 首を振ろうとしたが、思ったより強い力で顎を掴まれていて動かせない。
 アルベルトは真の目をじっと見て、「男とした事は、ないんだね?」と念を押すように訊いた。
 真は身の潔白を晴らそうと「うん!」と力強く答えたが、「でも、言い寄られた事はあるだろう?」との質問には思いっきり固まってしまった。アルベルトは益々胡乱な目つきで真を見た。
「やっぱり、あるんだね?」
「いや、その…」
「それって、卓くん?」
「えっ、ど、どうして?」
 何で分かったんだろうと思いっきり目を見張ると、アルベルトは「やっぱりね…」と呟いて下を向いた。真は焦ってしまい堪らずに口を開いた。
「あああ、あの、そうなんだけど! でも、卓ちゃんには、ちゃんとはっきり断ったし!
経験したってのは、男でも彼女でもなくて、秀夫さんに無理矢理連れていかれたソープの女の子としただけなの!!」
「えっ?」
 アルベルトはガックリと項垂れた頭をぱっと上げ、真の必死の釈明に目を丸くした。真は真っ赤になりながら恥の上塗りの告白を続けた。
「言っとくけど、全部5年以上前の話だよ! 卓ちゃんに好きだって言われたけど、彼はまだ中学生だったから、僕は本気にしなかった。僕はそのとき失恋したばっかりで、中学生の子に慰められてるんだなって思ったら、何だか益々落ち込んで…。そしたら今度は秀夫さんが来て、気晴らししようって連れて行かれたのがソープランドだったんだ。勿論、嫌だって言ったよ。そんな、ただやるだけなんて…。でも、『そんな事言ってるから、お前はいつまで経っても童貞なんだ。そのうち卓に尻掘られちまうぞ』って脅されて…。
 それに、一回やれば女なんてみんな一緒だって分かるから、失恋くらいで落ち込まなくなるって嗾(けしか)けられて、僕も自棄になって口車に乗っちゃったんだけど、何だかよく分かんないうちに終わっちゃってさ…。後にも先にもそれしかした事ないから、経験って言えるかわかんないし。だから、良くしてあげられる自信がなくて…」
「そんな、余計な事を!! 経験の有る無しなんて、そんな事は気にしなくてもいいんだよ。真…念のため確認しときたいんだけど、ソープに連れてったのって、あの増田屋の秀夫さんで、卓くんのお兄さんなんだよね?」
「う、うん…」
 ひどく苛々した様子で訊かれ気後れしながら返事をすると、アルベルトは口の中で何か呟いたが、スウェーデン語なのかよく聞き取れなかった。
 何だか責められているようで居たたまれずに俯くと、その頭の天辺で「はあぁ〜」とアルベルトの盛大なため息が聞こえた。
 真は羞恥で消え入りたくなった。俯いたまま両手で顔を覆うと、頭から包み込むように抱きしめられた。
「ごめんね…真。言いにくい事を言わせてしまって。僕はとても焼き餅焼きなんだよ。疑って悪かった…」
 耳元でいつもの優しい口調で詫(わ)びられて、こそばゆくて体が跳ねた。アルベルトは今度は耳殻に直接口づけて、「真の初めては僕が貰うよ」と吹き込んだ。真は感じてしまって震えながら顔を上げた。
「は、じめてじゃ、ないよ…?」
「童貞じゃないのは分かったよ。でも、こっちはまだなんだよね?」
 そう言って、アルベルトは真の尻を掴んで尻たぶの間(あわい)に長い指を滑り込ませた。
「ひゃっう!!」
 ネルの寝間着を通しても、指がぴったりと窄まりに触れているのが分かり、真は変な声を上げてしまった。
「男同士はここを使うんだよ。真のここは僕が貰う。僕が真の…初めての男になる」
 アルベルトは迷いを吹っ切ったようにきっぱりと宣言した。
「うかうかしてたら、あの兄弟にしてやられるからね。真は僕のものだよ。もう、誰にも触らせない」
 言うが早いか、真を抱きしめたまま体を捻って横になると、ころんと転がって真の上に馬乗りになった。
「とは言っても、真に痛い思いはさせたくないから、今日は諦めるけど…」
 あっという間に組み敷かれ呆然としている真の頬を、アルベルトはスルスル撫でながらちょっと残念そうに言った。
 痛いとの台詞に我に返った真は震え上がった。アルベルトを押し倒すと言っても、するとしたら自分が受け入れる方だろうから、痛みは覚悟の上だった。だけど、やっぱり痛いのは怖い。
「やっぱり、痛いの…?」
「充分慣らせば大丈夫。ただ、少し時間をかけた方がいいから、今日はもう止めた方がいいね…」
 アルベルトはベッド脇のサイドチェストに置いた時計を眺めて言った。外はまだ暗いけれど、明け方近いのかも知れない。
「でも、真に触りたい。真の全部を…見たい」
 上から欲望に染まった瞳で見つめられた。いつも紳士的なアルベルトの男の部分を目の当たりにして、真はコクッと喉を鳴らした。
 そのギラついた嘗めるような視線にゾクゾクする。恥ずかしいのに目を逸らせないし、胸が高鳴って嬉しいとすら思う。再会した当初から、ずっと感じていた不思議な感覚。
 そうだ、ずっと恋してたんだ――と思った瞬間、一旦引いた熱がまた体中を駆け巡った。
 アルベルトの目を見つめながら小さく頷くと、アルベルトは真の寝間着のボタンを外して胸を大きく開(はだ)けさせ、ズボンも下着ごと脱がしてしまった。
「あっ…」
 露になった局部を反射的に手で隠そうとしたら、アルベルトの大きな手で両手を拘束され、頭上で一括りに押さえられてしまった。大の男だと言うのに、アルベルトに片手で易々と動きを封じられ呆然としてしまう。
「ごめんね。でも、よく見せて…」
 ちっとも済まなそうじゃなく言うと、アルベルトは真の首筋から胸へと手のひらを滑らせた。
「あっ、あぁ…ん…」
 胸の突起を転がされ、堪らず声を上げて背中を撓(しな)らせた。
「真が部屋に泊まって、無防備に僕の前で裸になるのを、知られないように盗み見ていた。ずっと、こうしたくて堪らなかった…」
 しゃべりながらアルベルトは執拗に突起をいじっている。真の雄蕊からタラリと先走りが糸を引いた。
「ああ…真、感じてくれてるんだ…」
 アルベルトが嬉しそうに呟いたのを聞いて、真はさすがに恥ずかしくなって涙ぐんだ。アルベルトは押さえていた真の手を離し、覆いかぶさるように顔を近づけて両手で真の頬を包んだ。
「泣かないで…。嫌でも、もう止めてあげられない」
 悲痛なアルベルトの顔を見て、真は首を振った。
「恥ずかしい…だけ…」
「恥ずかしい事なんて、一つもないよ。真が感じてくれる事、僕がどれだけ嬉しいか分かる? 心配だったんだよ。僕が触れて真が萎えちゃうんじゃないかって。真が感じてくれなくちゃ、僕たちは心から愛し合ったとは言えないんだよ。だから、真、もっと素直に僕の愛撫に感じて。そうしたら僕は安心できる…」
 熱に浮かされたように囁きながら真の唇にキスをするアルベルトを、真は自由になった腕で抱きしめた。
「アル…」
「うん?」
「好き…。僕でよければ、全部あげる。アルの好きにして?」
 真の囁きにアルベルトは顔を上げ、しばらくじっと真の顔を見つめた後、「ありがとう。僕も愛してる。最高のクリスマスプレゼントだ…」と少し潤んだ瞳で笑った。
 もう恥ずかしくはなかった。真は密着したアルベルトの腹部に、ちゃんと感じてるんだと固くなった熱い欲望を擦り付けた。そうして先を促すように唇を開くと、誘われるままアルベルトはその唇にむしゃぶりついて真の舌を絡め取った。
 アルベルトは思う存分真の口腔を愛撫して、息の上がってしまった真を解放すると、今度は体中にキスの雨を降らせた。時々きつく吸い付いて白い肌に赤い印を施しては、嬉しそうにその跡をなぞる。真はその刺激にゾクゾクと肌を粟立たせ、はち切れそうな雄蕊から先走りの雫を零し続けた。
「ああ、すごい…。真の、こんなに…」
 アルベルトは感極まった声を上げて滑(むめ)るそこを握り込んだ。真は既に一杯一杯だったから、二度ほど扱かれただけで声を出す間もなく放ってしまった。
「あっ…」
 絶頂感にクラクラしながらも、白い飛沫がアルベルトの頬を濡らして滴り落ちるのを見て、真は血の気が引いた。
「ごめん!」と慌てて起き上がろうとするのを、アルベルトは真の胸を手で押さえて止めさせた。
「真のは、全部僕のものだからね…」
 そう言って妖艶に笑いながらあのウィンクをすると、顔についた真の白濁を手に取ってペロリと嘗めた。
「駄目! そんなの嘗めちゃ…」
 真は息を飲むと真っ赤になってアルベルトの手を取ろうとしたが、逆にその手を掴まれて、とんでもない台詞を囁かれた。
「真のは美味しいよ。それに、これは愛の証みたいなものだからね。瞬間を見逃したのが残念…。もう一回見せて」
 見せて…と言われてても、と真が青くなって首を振ると、「大丈夫。任せて」とアルベルトは身体を起こし、真の両足を取って大きく広げさせた。まるで赤ん坊のおしめでも替えるみたいな格好をさせると、露になった窄まりへ指を差し込んだ。
「あっ、う……」
「このまま自分で足を持っててくれる? 力を抜いて、少し我慢してね。すぐに良くしてあげるから」
 言われた通り真は両膝裏へ手を入れて自分で足を支え、詰めていた息を吐いて力を抜いた。
 今日は諦めると言ったから、まさかここを触られるとは思っていなかったが、アルベルトに全てあげると決めたから逆らうつもりはなかった。
 アルベルトは真の萎(しお)れきったモノを手のひらで柔らかく包み、窄まりに入れた指をゆっくりと抜き差しした。
 真はされるがまま大人しくしていた。入れる時は多少圧迫感を感じるが、抜かれる時は排泄するのと一緒でゾクッとするような快感を呼び起こす。
 普段は意識した事のない場所が、こんなにも感じてしまう事に驚いていた。出口付近は勿論のこと、中の粘膜がアルベルトの指の形をしっかりと捉えて、微妙な指の動きを伝えていた。
 アルベルトは真の放ったもので湿らせた指を滑らかに抜き差しして、何かを探すように動かしていた。
「ひっ!」
 腹側の粘膜を弄られていた時、飛び起きそうなほどの快感を感じて声を上げた。怖いくらいの感覚に縋るようにアルベルトを見ると、「ここが真の良いところだね。覚えたよ」と、その部分をマッサージするように撫で回された。
「やっ、や…あ……あ…あぁ…」
 信じられない事にアルベルトの手のひらで、萎れていたそこはすっかり息を吹き返していた。意識とは関係なく勃起するなど初めてだったから、どうしていいか分からずに喘ぐ事しか出来なかった。
 アルベルトは嬉しそうに大きくなったそこをまたゆっくりと扱き出した。
 真は足を支えていた手を離すと、自身のを握り込んでいるアルベルトの手を掴んだ。
「アル、待って…」
「イヤ?」
 残念そうに聞くアルベルトに、「アルも、一緒にして…」と言った。
 嫌とは口に出さなかったが、アルベルトはまだ一度も達っていないのに、自分ばかりが二回も達かされるなんて嫌だった。それに、自分は半裸…否、ほとんど裸に剥かれてしまったのに、アルベルトはまだスウェットを着たままなのも不満だった。
「アル…脱いで。アルの身体、見たい…」
 後ろに入ったアルベルトの指は動き続けていて、真は掴んだ腕を握り締めて喘ぎながら訴えた。
 アルベルトはちょっと驚いたように目を見張ったが、すぐに微笑んで「うん」と嬉しそうに頷くと、真の身体からゆっくり指を引き抜いて素早く全裸になり、寝ている真の身体を跨いで膝立ちで見下ろした。
「見える? どう、僕の身体は?」
 アルベルトは両腕を広げて、彫像のように美しく筋肉の付いた身体を見せて訊いた。
「すごい、きれい…。触りたい…」
 堂々と天を仰いでいるアルベルトの一物に思わず息を飲んだが、こんな所まで美しいんだなと、惚れ惚れと感嘆の声を上げて手を伸ばした。
 アルベルトはその腕をとって真を起こすと、脇の下に手を入れて掬(すく)うように抱き上げ、自分の膝の上に股がるように座らせた。
 真に肩に掴まるよう促し、熱(いき)り立った自分たちのモノを両手で掴むと扱き出した。アルベルトの屹立は真以上に濡れていて、ローションなど使わなくても激しい水音を立てた。
「あっ、あっ、…アル…アル…、んっ…あ、…ぁ…ぁ…」
「…真…真…」
 目を閉じて互いに名前を呼び合いながら、快感だけを追いかけた。
 ただ互いのものを扱き合っているだけなのに、身体は信じられないほど昂っていた。汗が吹き出し顎を伝うほどで、胸も背中も湿っているのに、冷えるどころか却って熱さが助長されるようだった。
 真はこんな快感を得るのは初めてで、肌を合わせる喜びと共に、罪深い思いに捕われていた。ふと、脳裏に父親の顔が浮かんで、よく妻帯で仏の道を歩めるものだと寒心した。自分は僧侶の道を捨てて良かったと本気で思った。
 こんな肉の喜びを知ってしまった自分は、もう元には戻れない。否、戻る気もないし、アルベルトと一緒ならどこまで落ちてもかまわないと思った。
「アル…好き、好きだ…」
 うわ言のように繰り返すと、アルベルトは応えるようにキスをした。
「…も、達っちゃう!…っ……」
 真の喘ぎに促されアルベルトが一際激しく扱き上げると、真は二度目の高みを飛び越えた。量こそ少なかったが真の吐精する様を満足げに眺めたアルベルトは、真を解放すると自分自身を更に激しく追い上げて、くっと息を詰めると、絶頂の余韻に浸る真の胸目がけて白濁を迸らせた。
 胸に熱いものを受け止めてアルベルトの絶頂を目の当たりにした真は、自分が達した時よりも満たされる思いがして嬉しかった。でも、身体の方は限界を迎えていて、二度も立て続けに精を放出した気怠さに、アルベルトの胸に凭れて目を閉じた。
「ああ…真、とっても良かったよ…」
 耳元でアルベルトの囁きを聞きながら、意識が遠くなるのを感じた。

 目を覚ました時、辺りはすっかり明るくなっていた。
 真はぱちぱちと瞬きして見慣れない空間を眺めた。しばらくして、ぶわっと一遍に昨夜の出来事を思い出した。
『うわぁ〜〜』
 恥ずかしさに軽くパニックを起こした真は、心の中で叫びながら慌てて跳び起きようとしたが、アルベルトに背中からがっちりと抱えられた状態で身動きがとれなかった。仕方なくそろりそろりと向きだけ変えてアルベルトと向かい合った。
 アルベルトはぐっすり眠っていて、無理に起きようとして起こさなくて良かったと、ほっと肩の力を抜いてその寝顔を眺めた。
 この部屋に初めて泊まった朝は、真が起きた時にはもうアルベルトは朝食の準備をしていたし、葉月と三人で寝ていた時は真が一番最後に起きていたから、こうしてマジマジと寝顔を見るのは初めてだった。
 うっすらと生えた無精髭が、いつもより精悍に感じさせてすごく格好良い。いい男は寝てても素敵なんだとため息が溢れた。
「睫毛、ながーい…」
 思わず呟くとまるで待っていたかのようにアルベルトが目を開けた。
「おはよう、真」
「…おはよう」
 見惚れていたのが分かっただろうかと赤くなりながら答えると、アルベルトがチュッと唇にキスをしたので益々赤くなってしまい、ばつの悪さを誤摩化すようにちょっと怒ったふりで訊いた。
「いつから起きてたの?」
「少し前…」
「起こしてくれても良かったのに」
「うん…。でもよく寝ていたし、僕は、こうして真を抱いているのが好きだから…」
 初めてこうして朝を迎えたはずなのに、何度もしているような口振りに、真は訝しげに首を傾げてアルベルトを見つめた。
 アルベルトは悪戯が見つかった子どもみたいな顔で、「実は、真が初めて泊まった朝も、こうして抱いてたんだ…」と白状した。
 前の夜、二人で遅くまで話し込んでいたから、朝寝坊した真は全く気がつかなかったが、「起きる様子がなくて、あんまり無防備だったから、我慢できなくて…」真の布団に忍んで抱いていたのだと言われ、真は呆れ返ってしまった。
 これは、他にも色々とされているんじゃなかろうか…。そう言えば初めてキスされた時も、何だかよく知ってるような感触だなあと、ちょっと変に思ったんだよね…。
 色々と思い当たって、胡乱な目つきでアルベルトを見ると、忽(たちま)ちシュンと項垂れてしまった。それはまるで大きな犬が叱られて耳を垂れているみたいで、可笑しくて笑い出してしまった。真はクスクス笑いながらアルベルトの額にキスをした。
「いいよ…何しても。僕はアルのものだから…」
 そう囁くと、アルベルトはこの上もなく幸せそうに微笑んで、
「ありがとう、真。愛してる…」と、真をぎゅっと抱きしめた。

 (了)


今後の励みになりますので、ご感想を是非。

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