INDEX NOVEL

一握の砂 〈17〉

※ 性描写があります。18歳未満の方はお読みにならないでください。

 聡は修二の身体から降りて横抱きに抱え上げた。身長の差がそれほど無いにも拘わらず、修二の身体は軽々と持ち上がる。その軽さに胸が痛くなった。
 修二は怖かったのか持ち上げられる時に息を呑んで聡の首に縋りついたが、その後は大人しくベッドへ運ばれ服を脱がされた。次いで聡が服を脱ぐ間、修二は一糸纏わぬ姿でベッドに横たわり、放心したようにその様子を眺めていたが、全裸になった聡がベッドに上がった瞬間、弾かれたように両手で顔を覆い隠した。
 聡は修二の身体を跨いで覆い被さり、「何故、顔を隠すの?」と問い掛けながら、その手の上に何度もキスして外すように促す。漸く緩めた手の下から泣きそうな顔を覗かせた修二は
「身体、あちこち酷いから…恥ずかしい…。あまり見ないで…」と囁いた。
 聡は身体を起こして修二の裸体を眺めた。華奢な身体はとても二十代後半の男の身体には見えないが、昔と少しも変わらないバランスの良さで、柔らかな明るい午後の光を浴びた修二の白い肌は、肌理が細かく輝いて見えた。確かに、動かない左足を庇っているせいか右足の方が僅かに太くなっているし、左足のつけねの内側、性器に近い場所に五センチ程の長さの縫い跡があり、そこだけ色が変わって陥没しているが、聡には修二の美しさを損ねるほどのものとは思えなかった。
 聡は後へ下がり、その傷跡へ顔を寄せて音を立ててキスをすると、舌を伸ばして跡をなぞった。修二は
「あっ」と声を上げて身を捩ったが、太股を手で押さえられていて逃げられない。聡は唾液で濡れた傷跡を愛おしそうに指で撫でながら囁いた。
「これは、修二の生きてきた証だよ。どんなに賢く生きようとしても、誰だって過ちを犯すし、避けられない理不尽な出来事にも遭遇する。でも、修二は頑張って歩けるようになった。職は失ったかもしれないけど、書く事を…、夢を放棄しないで懸命に生きている。そんな修二を尊敬している。だから、自分を卑下しないで。僕は、今の修二を愛したい。そして、これから先もずっと…」
「聡…」修二の声が震えて消えた。
 聡は修二の足を広げ股へ割って入った。両足の膝裏に手を入れて屈伸させるように前方へ倒し、尻を高く上げさせる。そのままの状態を保つため、その尻の下へ自分の正座した太股を添えて支え、足はそのまま両肩に担いだ。かなり無理な姿勢なので、「痛い? 腰、辛い?」と気遣わしげに問い掛けると、修二は詰めていた息を吐き出して首を横に振った。
 ベッドの足元へ用意していたジェルをたっぷり右手の指先に垂らして露わになった後孔を円を描くように撫でると、修二は再び息を呑んで身体をくっと強張らせた。
 聡はこれまで何度も夢に見ながら一度も犯した事の無かったそこに触れただけで、自分の中心がどうしようもなく熱く硬くなるのを感じた。唾を飲み込んで、その窄まりの内側へゆっくりと中指を差し込ませた。
「あっ、く…」
 修二が辛そうな声を漏らし、更に身体を固くした。嫌がる素振りは見せないけれど、受け入れた経験がある割にその入り口はとても固く、内壁を撫でながら挿出させる指の動きを押さえつけるように、襞が絡みついて離さない。
「修二、力を抜いて。息を詰めたら駄目だ」
「んっ、う…ん…」
 その初な反応に、聡は田辺の言葉を思い出した。女を抱くように扱っていると言っていたが、吉田とはどんなセックスをしていたのか、きちんと快感を得られていたのか、思わず訊きそうになって止めた。訊いてしまえば嫉妬に駆られて自制心が保てそうになかった。
 指の動きに合わせて呼吸をするよう促しながら、少しずつジェルを足してもう一本指を増やす。修二のものは萎えてすっかり柔らかくなっていた。聡は身体を屈めてそこを口に含んだ。熱い咥内で舌を絡めて吸い上げるように舐ると、あっと言う間に硬く膨らみ、修二は震えながら大きく喘いで仰け反った。
 中に入れた指先が腹側の襞を撫でた時、修二は鋭く悲鳴を上げ、くっと後孔が収縮した。
「やっ、あっ! そこっ、嫌だ!」
 僅かに盛り上がった場所をもう一度優しく撫でると、「嫌だ!」と叫んでシーツを握りしめた。聡は驚いて口に含んでいたものを離すと修二の顔を見た。
「どうして? 気持ちいいでしょう?」
 修二は目に涙を溜めてふるふると頭を振って否定したが、その反応とは裏腹に、見る間に先走りが鈴口に溜まって玉のように光っている。嘘をついているのは明白で確かに感じている筈だ。聡は指を入れたまま、辛そうに顔を歪めている修二に出来るだけ穏やかに質問した。
「吉田は、その…、入れる前に、ちゃんとここを慣らしているんだろうね?」
「うん…。一応は…」
「一応?! そんなんじゃ、痛いんじゃないのかい?」
「痛いは痛いけど…。まだ、二回しか入れた事が無いから、そんなものだと思っていた…。別に、切れはしなかったよ」
「そういう問題じゃなくて、痛いままじゃ気持ち良くならないだろう?」
「痛いのは、別にいいんだよ…」
「良くないだろう!」
 聡が叫ぶと、修二は首を振りながらため息と共に呟いた。
「いいんだ…。感じると声が止められないから、痛い方が良い」
「えっ?」
 修二の意外な答えに唖然として訊き返した。
「声が…嫌なんだ。あんな、女みたいに善がるのが、嫌で堪らない。俺は女じゃない。女じゃないから…」
 眉間に皺を寄せて呟く修二に、聡は田辺が語った修二の過去に思い至って憐憫の情が浮かんだが、哀れんでばかりいられないのだと頭を振った。この考えを捨てさせない限り自分たちは先へ進めない。聡は修二の中に入れたままの指を再び動かしはじめた。
「聡! 嫌だ! あっ、ああっ…んっ、ふ…――」
 修二は声が出ないように口を両手で覆った。聡は左手一つでその両の掌を一緒に掴んで外させ、胸元で押さえつけると、修二の感じるポイントを指先で回すように何度も撫で上げた。
「あうっ! 嫌だ! ああっ、んっ、やぁ…嫌だぁ…」
 修二のものは硬く反り返って、溢れた先走りが腹に小さな液溜まりを作っている。頭を仰け反らせて曝した白い喉元から、艶やかな去声を発して身悶える修二に、聡は目が眩むほど煽られた。こんなに身も世もなく善がり狂った修二の姿を見るのは初めてだった。熱が一気に下腹に集中して、硬度を増した自身のものからも先走りが溢れ出した。
「修二、前立腺を触っているから感じてしまうのは当たり前だよ。ここは、男だからこそ感じられる場所なんだ。僕は修二に気持ち良くなって欲しい。感じて欲しい。好きな人が喜んでいるのを見ると、自分も感じるし嬉しい。セックスってそういうものだと思う。だから怖がらないで、もっと気持ち良くなって、もっと声を聞かせて。修二の声、好きだよ。すごく感じる。ねぇ、修二は女なんかじゃないよ。僕らは男同士だから愛し合えるんだ。僕は、もっと色んな修二の姿が見てみたい。快感に素直に身を委ねて、僕に全て任せてくれればいいんだよ。ほら、力を抜いて、楽にしてごらん」
 そう言って微笑みかけると、潤んだ瞳でぼうっと見ていた修二が小さく頷いた。聡は拘束していた修二の両手を離して再び身を屈め、止めどなく透明な液体を流し続ける修二の雄蘂を口に銜えて吸い上げた。同時に窄まりを広げるように指の間を少しずつ開きながら挿出を繰り返すと、修二は悲鳴を上げて痙攣した。自由になった両手でシーツを掻きむしり、泣いて止めてと懇願する。栗色の髪が乱れて涙に濡れた頬に絡みついた。聡はその懇願を全く無視して、言えば言うほど更に愛撫の手を強めた。
 左手の指で睾丸と後孔の間をフェザータッチで触れながら、口を窄めて陰茎を啜り上げては舌を絡めて舐め下ろす。わざと亀頭の下の括れに歯を立てると、蜜がどっと溢れ出した。舌を尖らせて鈴口を割るように舐め取ると、疳高い啜り啼きが上がる。そうして後孔に入れた指が三本、楽に動かせる頃には、修二は喘ぎながら聡の髪に手を入れて、自ら腰をくねらせ官能を追いはじめていた。
 聡は漸く指を引き抜くと修二の身体を一旦解放した。くったりと弛緩した身体を見ながら素早くコンドームを装着し、再び修二の足を抱えて尻を上げさせた。修二はされるがまま曝した窄まりの向こうから、トロリと快感に濡れた瞳で聡を見上げた。
「ゆっくり入れるから…。ちょっとだけ我慢して」
 聡はそう言うと、艶やかに濡れて赤い粘膜を覗かせている小さな入り口へ、ゆっくりと自身のものを差し込んだ。修二は「くっ…」と呻くと眉を寄せ、痛みのため全身に汗を滲ませた。それでも懸命に呼吸を合わせて太い楔を呑み込んでいく。カリの部分がかなりきついようだったが、そこを過ぎると楽になったのか、良い具合に身体の力が抜けた。そのまま何とか最後まで埋めてしまうと、二人同時に安堵のため息をついて笑い合った。
「辛い?」と訊くと、修二は首を横に振って「嘘みたいだ…」と呟いた。
「嘘じゃないよ」と返しながら聡は修二の手を取って二人の接合部を触らせた。修二は自分の指の感触に「んっ…」と鼻から甘く息を抜くと、目を細めて聡を見詰め、「動いて…」と囁いた。
 その誘う目つきに聡は必死で束ねていた理性の糸をばっさり切られてしまった。大きく腰をグラインドさせ、納めた雄蘂を馴染ませると、入り口ギリギリまで引き抜いて修二の良い所を目がけて一挙に押し込んだ。一定のリズムで挿出を繰り返しては、また馴染ませるように泡音を響かせて襞の間を掻き混ぜる。
 修二は突かれる度に身体を震わせ、聡の腕を強く握ってその刺激に耐えていたが、暫くすると声を抑える事など忘れ、歓喜に震える声で何度も聡の名を呼びながら、快楽の波に身を任せていた。
「ああ、修二、いいよ…堪らない。すごく気持ちいい…。修二は? まだ痛い?」
「あっ…いっ…、あっ…ん…」
 聡の問い掛けに、修二は快感と苦悶に満ちた顔で薄い唇を戦慄かせ、言葉にならない声を上げただけだった。全身を朱色に染めて汗を纏った肌と、触れてもいないのに硬く立ち上がった胸の飾りが何とも言えない色香を漂わせ、誘われるように聡がその小さな突起を指で転がすと、修二は悶えて身体をくねらせた。反動で反り返った陰茎が腹に擦れて糸を引く。溢れた愛液で薄い草叢までしっとり濡らした姿態に、聡は頭の芯が痺れるほど興奮した。
“ 受 ” と “ 攻 ” では当たり前だが感じ方が違う。川上に言われたせいもあるが、“ 受 ” の経験が多い分この先 “ 攻 ” だけで満足いく快感を得られるか、本当の事を言えば自信が無かった。だが、そんな事は杞憂だった。修二の中は熱く、聡の怒張にとろけるように絡みついて離さない。突けば吸い付き、抜けば絞るように縋り付く絶妙な刺激に、達ってしまいそうになるのを必死で止めている状態だった。こんなに満たされて気持ち良く感じるセックスは初めてだった。
 肉体の直裁な刺激だけでなく、修二の身悶える姿を見ただけで雄の征服欲は充分に満たされ、頭の芯から幸福感と絶頂感が交互に押し寄せてくる。精神と肉体の両方が一つになって身体中を熱くする。
 これが、愛している相手だからこそ得られる “ 幸福な快感 ”。七年もの間、待って、待って、漸く手に入れた美しい宝物。
「修二…、やっと、手に入れた。もう、絶対に離さない。僕のものだ。もう誰にも渡さない!!」
 そう宣言するように叫ぶと、一層激しく小刻みに腰を突き上げ、同時に修二の陰茎も激しく扱き上げた。
「やあっ! 聡ぃー! あああー」
 修二は細く長い悲鳴を上げると、白濁した精を吹き上げた。聡の手で絞り出されるように扱かれると二度、三度と吐精し続け、連動するように後孔の粘膜の襞が中にいる聡をきゅっと締めつけた。聡はその刺激に、股間から脊髄へ走り抜けるような痺れを感じて、「うっ」と呻いた。そのまま脳髄へ突き抜ける快感に震えて勢い良く射精したが、その一度で止まらない放出は、ゴムの中で自分の熱さを感じる程だった。
 聡は汗を滴らせ全力疾走したように荒い呼吸を繰り返していたが、長く息を吐くとゆっくり修二の身体から抜け出して、そのままがっくりと頽れた。
 修二は脱力した聡の身体を受け止めて、その重みと形を確かめるように抱きしめた。そして、苦しげに上下する汗に濡れた背中を優しく撫でながら「愛してる、聡…」と掠れた声で囁いて聡の額に口づけた。
 修二の口から聞く全ての答えを集約した愛の告白に、生まれてきて良かった、修二と会えて―― 再び巡り会えて良かったと、沁みじみと感涙した。聡はその涙を押さえるように愛しい身体を抱きしめ返し、やっと得られた何にも代え難い幸せを噛みしめた。

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