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Refrain 〜 北の町〈 OTARU 〉にて 〜
翌朝、函館へ移動する車中にて〈和の気持ち〉

 函館へ移動する車中。律は俺に凭れてぐっすり眠っている。
 無理もない。昨日寝たのは明け方近かった。俺はと言えば一睡もしていない。
 寝ていたら、七時に出発するこの電車に乗るのは不可能だった。
 これから俺もひと眠りするつもりだ。
 昨夜は今日の事を考えて、一回したら寝るつもりだった。
 でも、律が時給の安い本屋のバイトを辞めるなどと言い出して、またぐるぐると捻れ出したようだから、元に戻しておく必要があった。
 律が泣き止むのを待って理由を訊いたけど、意地を張って口を割らない。
 仕方ないからあそこを禁めた状態で弱い耳を舐ったり、窄まりをゆるゆる攻めたりして白状させるのに時間がかかった。
「少しは…身だしなみに、気をつけようかなって…」
 だから、少し余分なお金が欲しいのだと聞いて、嬉しいような腹立たしいような、複雑な気分になった。
 律が磨けば光るのなんて、疾っくに知っている。
 いつもボサボサの髪に隠れて見えないけれど、律が奇麗な顔立ちをしている事は、律と親しい人なら誰でも知っている。分かってないのは恐らく本人だけだ。
 律はとても寂しがりやなのに、臆病な猫のように人見知りだから友だちが少ない。その上無口だからか、『自分はつまらないヤツだ』と思い込んでいる。
 俺と知り合う前は、それでもいいやと諦めてたようだから、外見を磨いて自信をつけたいなんてかなりの進歩だ。俺だって本当の律を自慢したい気持ちもある。
 いつもは無愛想だけど、ふとした折に見せる甘えた表情は、そりゃあもう愛らしくて…。
 ああ、やっぱり駄目だ。
 律の魅力は、俺だけ分かってりゃあいい。
 俺だけの、可愛い律であればいい。
「でも、本屋辞めたら、また会える時間が少なくなるよ。律はそれでもいいの?」
 ちょっと意地悪い質問をすると、見る間に律の瞳が潤む。貝みたいになかなか口を開かないけど、目の表情は割と豊かで分かりやすい。
「…分かった。じゃあ、日数を減らしてもいいから、辞めるのはなし。その分、俺が律の部屋に泊まる回数を増やす。それでいい?」
 まるで俺が譲歩したみたいな提案をすると、律はぎゅっと俺にしがみついた。
 その額にキスしながら「いい?」と念を押すと、「ん…」と小さく頷いた。
 眠気と安堵したのとで、律はそのまま寝入ってしまい、俺は朝になるまで律の寝顔にキスしたり、普段は撮れないようなお宝画像を写メしたりして過ごした。
 意地っ張りだけど本当は素直で優しい律に、意地悪で悪知恵ばかり働く俺は、全然相応しい男じゃないんだけど、俺はもう、律以外の誰も欲しくないから、諦めてもらおうと思う。
 律に寂しい思いをさせる田舎の家族の元へは帰さない。そのうち、親父と弟を丸め込んで一緒に暮らすつもりだ。
 えっ?  反対されないかって?
 平気さ。うちの家族はみんな、猫が大好きだからね。

 (了)

※ J.GARDEN32で配布した豆本を加筆修正しました。 Photo by ISM

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