INDEX NOVEL

忘れられないクリスマス2010
愛しの従兄弟 〈 後 編 〉

※ 性描写があります。18歳未満の方はお読みにならないでください。

 綾人の二十四歳のクリスマスは、八歳の正月に次ぐ最悪な日になった。
 弾む楽しげなクリスマスソングと共に、好きな人と談笑する人々のざわめきの中、どうしてこんな事になったのだろうと、綾人は痛むお腹を押さえ絶望的な気分で目の前の幸人を眺めた。
「綾人、お腹が痛いんだろう? これ、俺の常備薬。よく効くからすぐ飲んで」
 心配そうに眉を寄せ幸人は筒状の薬剤を差し出した。小さなプライドが顔を出しほっといてと囁くけれど、激しい痛みの前では簡単に引き下がる。綾人は小さく頭を下げて薬を受け取ると急いで封を切り、漢方薬らしい苦い粉末を水と一緒に飲み下した。
 気分的なものだろうが薬を飲んだというだけで、腸を揉まれているような激しい痛みが和らいだ。落ち着いてくると少し余裕が出て来て、綾人は今の自分の置かれている状況をゆっくり反芻し始めた。
 デートの事を幸人に話してしまった以上、現実のものにしようと変な義務感が生まれた綾人は、ヘルトン東京にクリスマスのディナーと宿泊の予約を入れた。二十五日まで一ヶ月もなかったので取れない事も予想したが、どちらも簡単に予約出来た。
 イヴではなく二十五日だからか、はたまた最近はお家ディナーが流行っているからか、会社の先輩たちが夢のようだったと語るバブル期のように、どこのホテルもカップルで満杯になる…と言う事はないらしい。
 彼女の写メは事前に送ってもらっていた。少しふくよかだが目の大きい可愛らしい顔立ちをしていた。割と嫌いじゃないタイプだった。
 日にちが迫るにしたがって綾人も徐々にその気になり、意気揚々とホテルの前で彼女と待ち合わせをし、レストランの予約席に案内された途端、目眩がしそうになった。
 綾人たちが案内された席の斜向かいのテーブルに、幸人が座っていたのだ。幸人は会社で見るより遙かに上質なウールのスーツに身を包み、優雅にシャンパングラスを傾けている所だった。
 驚きに声も出ないまま見つめる綾人の視線に気がつくと、幸人はにこやかに微笑んで「やあ」と手を挙げた。同時に、綾人に背を向けて座っていた幸人の連れが振り向いた。繊細なまでに麗しい面立ちをした男だった。
 男は綾人を認めると、瞳に親しげな色を浮かべ「やあ、久し振りですね…」と微笑んだ。綾人はそれが誰だが分かった瞬間、目眩どころか貧血の時のように視界が暗くなるのを感じた。
 忘れもしない、あのトラウマになった正月の会食に幸人が連れて来ていた同級生だ。あの頃よりはずいぶん男らしくなったけれど、鈍い綾人ですら感じるほどの強い色気を漂わせていた。
「だっ、誰? 誰? 知ってる人?」
 後ろから、上擦った興奮を抑えきれないような声がした。我に返って振り向くと、既に視界から綾人の姿を排除した女の惚けた顔があった。
 綾人は身体の芯から冷たくなっていくのを覚えたが、なけなしのプライドを動員し従兄弟とその友人だと紹介すると、彼女は綾人を押し退けて、それこそ向こうのテーブルに座らんばかりの勢いで自己紹介した。
 幸人とその友人は優雅な微笑みを浮かべながら挨拶を返し、綾人は漸く自分のテーブルに着く事ができたが、その日の全てが台無しになった事は言うまでもなかった。
 綾人が座るよりも先に幸人たちが見える側へ腰を下ろした彼女は、ちらちらと幸人たちに秋波を送りながら、ちまちまと料理が運ばれて来る間、ずっと幸人たちの事を根掘り葉掘り聞きたがった。
 初めのうちは沸々と何に向けていいか分からない憤りを感じていた綾人だったが、三十分もすると諦めもついて請われるまま幸人について語って聞かせた。
 彼女が自分を見ていないのは、ある意味綾人にとっては救いになった。初めての人と食事をするのが苦手だから、今日も緊張して殆ど食べられないだろうと思っていた。
 新しい彼女を作ろうと思っても、こんな調子だから合コンなんて以ての外だ。本当は今日だって、二人きりより友人と三人でと思ったのだが、「アホですか。俺はお前のお母ちゃんじゃありません」と言って断られた。
 偶然なのか何なのか、幸人がどういうつもりなのか知らないが、もうどうでもいいやと開き直れた。お陰で大枚払ったフランス料理を堪能する事が出来そうだ…。そう喜んでいられたのは、魚料理が運ばれて来たところまでだった。
 お腹が痛いのである。ジャガイモだがカボチャだか分からないスープを飲んだ時点で既に異変を感じていたのだが、腹痛には波があるからずっと我慢していた。それも鱸のポワレを口にした途端、耐えきれずに中座した。
 一回出してしまえば治まるだろうと思っていた痛みは、悪夢の細波のように何度も押し寄せて止まらない。食事の途中でトイレに行くなど恥ずかしくて仕方なかったが、こればかりはどうにもならない。彼女も「仕方ないよ」と気にする風もなく、かえって幸人たちをじっくり眺められるとばかりに、「ゆっくり行ってきて」と付け加えた。
 食べ付けないなものを食べたせいだろうかと訝しく思うが、原因は全く分からない。
 結局二時間の間に三度中座し、腸の痛みは治まるどころか益々酷くなるばかり。それでも、あまり待たせては悪いし、いくら何でも格好悪い。綾人は便座にしがみついていたいのを我慢して、脂汗をかきながら四度目の中座から戻って来ると、彼女がいるはずの席に幸人が座っていた。
 幸人は綾人を見ると、まるで彼女の代わりに申し訳ないといった表情を浮かべて言った。
「彼女、デザートまで食べたから帰りますって。伝言頼まれた…」
 彼女の姿がない時点で何となく予測していた答えだった。
 無意識に幸人が座っていたテーブルを眺めると、いるはずの麗しい友人の姿も消えていた。綾人の視線で分かったのか、幸人は「帰ったよ」と答えた。
「用事があるって先に帰った。もともと俺が無理矢理付き合って貰ってただけだから」
 綾人はお腹を押さえながら無言で自分の席に座ると、メインの子羊のソテーやら、アイスの溶けかけたデザートの皿が並べられたテーブルをぼうっと眺めた。
 どうしてこんな事に…と思いはするものの、全てがどうでも良くなっていた。初めて会った殆ど知らない相手だし、帰られた所で何の感慨も湧かなかった。そんな事より、とにかくこのお腹の痛みを止めて、早く横になりたかった。
 そうして幸人から差し出されたのが、どんなクリスマスプレゼントより嬉しい下痢止めだった。
 疼くような痛みが退いてだんだん人心地ついてくると、体温も平常心も戻って来て恥ずかしさが込み上げた。こんなみっともない姿を最初から最後まで、選りに選って幸人に見られるなんて…あの正月に次ぐ恥ずかしい出来事だった。
 さすがにもう泣きはしないけれど、落ち込みは負けず劣らず酷かった。もう一刻も早く幸人の前から立ち去りたかった。
「帰る…」
 綾人は消え入るような声で囁くと伝票を持って立ち上がった。幸人も立ち上がり、「送る」と言って綾人の腕を取ろうとしたが、綾人はその手を思いっきり振り払った。驚いて目を見開いた幸人の表情にはっとして、慌てて言い訳をした。
「ごめん…。ホテルの部屋、取ってあるから。家に帰る訳じゃないから…大丈夫」
「じゃあ、部屋まで送る」
 尚も食い下がる幸人にこれ以上逆らう気力がなくて、綾人は幸人に腕を取られてレストランを後にした。

 先にレストランへ向かったので、チェックインを済ませていなかった綾人に代わり、全てを幸人がしてくれた。
 魂が抜けたみたいな身体を幸人に連れられて、四十階のスウィートルームに足を踏み入れると、暗い部屋の窓に宝石のようにキラキラと七色に瞬く新宿の夜景が浮かび上がっていた。『なんてクリスマスだろう…』とクサクサしていた気持ちが少しだけ晴れた気がした。
「きれいだ…」
 その呟きに幸人は無言で頷いて、綾人を夜景が見えるソファーに座らせた。そのまま帰るのかと思いきや、幸人はバスルームへ向かい風呂の用意をし始めた。暫くしてバスルームから出て来た幸人を窺うと、「たぶん身体が冷えたんだと思うよ。早く温めた方がいい」と言って綾人をバスルームへ連れて行った。
 疲れてぼうっとしている綾人を、幸人はあれよあれよと言う間に裸に剥いて、男二人が寝そべって入れるほど大きなバスタブに入れさせた。
 確かに身体が温まるとホッとして、気分も体調も良くなった気がした。綾人は心地良さにうっとりと目を閉じていたが、衣擦れの音に気づいて瞼を上げると、裸になった幸人の姿が目に飛び込んで来た。驚いてポカンとしている綾人に、幸人は「一緒に入っちゃ駄目かな」と言いながらバスタブに足を踏み入れた。
 いいも悪いも、人の承諾なんか求めていない幸人の態度に唖然としながらも、綾人は幸人のために自然と身体をずらしていた。幸人の裸を見たのは彼が中学生になったばかりの時以来。見違えるほどの逞しい身体に気後れして慌てて背中を向けると、幸人の手が綾人の髪を優しく梳いた。慌てて振り向くと眼鏡を外した幸人が穏やかに微笑んでいた。
「洗ってあげるよ」
 いいと拒否しようと開けた唇は、何も言葉を発せずに閉じられた。代わりに優しくマッサージするように動く指の心地良さに、猫のように喉を鳴らしてしまい慌てて声を呑み込んだ。子どもの頃、泊まりに行くとよくこうして頭を洗ってもらったのを思い出す。時間が一気に逆戻りして、幸せだと思っていたあの頃へ帰った気がした。
 されるがままシャンプーをしてもらい、リンスをしながら首や肩を揉んでもらうと、あまりの気持ちよさに綾人はうとうとし始めた。幸人の指が肩から背中を這い回った挙げ句、胸の突起を弄ってもただただ気持ちが良いだけで、素直に喉を鳴らして喜んだ。
「気持ちいいの?」と耳殻を噛まれながら囁かれた。こくこくと頷くと、熱くて柔らかい唇が耳の後ろを通って綾人の首筋を何度もキスしていた。
 いつの間にか、綾人は幸人の身体に身を凭せ掛け、後ろから抱きしめられるようにしてバスタブに浮かんでいた。意識が浮上したのは、身体の中心にある器官が久し振りに反応したのを感じたからだった。無意識にその場所に手を伸ばすと、固く節くれだった自分以外の手があった。
「んんっ?!」
 慌てて目を開けて幸人の手から逃れようとすると、足が滑ってバスタブに沈みそうになった。すぐに後ろから逞しい腕が綾人の身体を支えて引き起こした。
「危ないよ」
「だっ、だって、ゆきちゃんが…」
 触ったから、勃っちゃった…と言おうとしたのを既の所で呑み込んだ。勃起している。自慰をする気にもならず、朝だって、まともに反応しなくなって久しいのに、何でだろうと思いながら湯の中で自分のそこを触った。
「勃っちゃった? 綾人、ずいぶん気持ち良さそうだったからね」
 くすりと幸人が笑った瞬間だった。ざっと音がして血の気が引いた。手の中の隆起もいっぺんに萎んでしまった。
「うっ、あ…」
 自分でも戸惑う程の変化だった。幸人に笑われたと思っただけで羞恥と恐怖とで一杯になる。抑えきれない戸惑いが涙になって流れ落ちた。
 湯の中で見えもしない股間を片手で隠し、もう片手で顔を隠した。恥ずかしかった。自分はどうして、いつもいつも幸人にこんな恥ずかしい姿を見られてしまうのだろう。
「綾人…」
 沈んだ声で名を呼ばれた。きっと呆れられたのだろうと思った綾人は慌てて幸人に背中を向けて、両手で口元を押さえ零れそうになる嗚咽を止めた。
「ごめんね、綾人。邪魔して悪かった…」
 背中から抱きしめられた。驚く間もなく幸人の手が綾人の股間を包み込み、優しく揉み始めた。
「ひっ、や…」
 前屈みになって幸人の手を上から押さえた。いやいやと無意識に首を振ると、幸人が首筋に顎を乗せ動きを止めさせた。
「綾人に彼女がいるって聞いて…どうしても、見たかったんだ。あんな近い席になると思わなかったし、なんだか邪魔するような形になって悪かったと思ってるよ。せっかくこんな素敵な部屋も取ったのにね…。だからその分、今夜は俺が、してあげる…」
 肌を密着させている嘗てない状況に、心臓が破裂しそうなほどどきどきしながらも、頭で『してあげるって…何を?』と疑問符が舞う。幸人が答えるように膨らみ始めた萌芽をきゅっと握った。
「いっ、いいっっ!! しなくていいからぁ!」
 彼女の代わりに奉仕してやるという意を悟った綾人は、冗談じゃないと思いながら幸人の手を握って外させようとした。
「どうして? 今夜はそのつもりだったんだろう? 彼女じゃなくて悪いけどね…。でも、大丈夫。男でも女でもそう変わらないから。綾人は目を瞑っていればいいからね」
 力を抜いてと耳元で囁く声にゾクゾクする。思わず力が抜けそうになるのを、そういう事じゃないからと自分を叱咤して首を振る。けれど、いやいやと拒否すればするほど、幸人の腕の力は強くなるばかりだ。片手で胸の辺りを抱えられ、背中に身体を押しつけられて動くに動けない。どうしていいか分からなくなった綾人は子どもの頃のように降参するしかないと思った。
「ちっ、違うから! あの人、彼女じゃないから! クリスマスだし、そうなれたらいいなって紹介されただけ。邪魔されたとか思ってないから。だから、こんな事しなくていいからぁ!」
 半分自棄くそで叫んだ。子どもの頃、嘘や隠し事をしていると、どんなに上手く誤魔化したつもりでも、最後にはいつも白状させられていた。何年経っても幸人に隠し事など出来ないのだ。
「ヤりたいだけのために、紹介してもらったの?」
 幸人の扱く手は止まったが、ちょっと呆れた声音で聞かれ、慌てて勃たなくなった経緯を説明した。恥ずかしかったから背中を向けたまま喋り続けたが、幸人の反応が怖くてまた涙が出そうになった。
 じっと静かに話を聞いていた幸人は、聞き終わると綾人の頭を優しく撫でて労るように言った。
「そうか…可哀相に。大変だったね。でも、もう心配しなくても大丈夫だよ。俺が治してあげるからね」
 そう言うと立ち上がり、湯から上がると棚に用意されていたバスローブを羽織った。それから綾人の腕を取って立たせると、バスタオルを広げて綾人の体を包んだ。
 子どもの頃、やはりこうして拭いてもらったのを思い出す。幸人はまるで自分の子どものように、三つしか違わない綾人の世話を何くれとなく焼いてくれた。それが急に無くなったのだから、寂しさもひとしおだった。
 勝手に抱いた蟠りがなくなった訳ではないが、こうしてあの頃と同じように世話を焼いてくれるのが嬉しかった。自分だけを見つめる優しい目。優しく触れる暖かい手。それがどんなに恋しかったか。長い時間の垣根を越えて「おいで」と差し出された手に、綾人は素直に飛び込んだ。

「やぁ…あんっ、あっ、あっ、ん…」
 絶え間なく押し寄せる快感の波に身体が震えて止まらない。女性との交渉は振られた彼女一人だけだから、何がどうとは言えないけれど、全然ちがうもののように感じた。
 たった指一本とは言え、自分の体の中を生きているものが動くなんて、男には一生経験できないものだと思っていた。
 そんな大げさな感想を持つくらい経験値がないのだ。それが、七十の老人でも難なく勃つという場所を弄られている上に、反射で痛い位にそそり立つそこを、腔内に含んだままねっとりと幸人の舌が這っているのだから、ひっきりなしに喘いでいないとどうにかなりそうで怖かった。
 ベッドに寝かされてバスローブの前をはだけられて、ジェルをたっぷり付けた幸人の指がお尻の窄まりに触れた時、やっぱりそうするんだな…くらいの知識はあった。でも、こんなに気持ちが良くて、なのに、切なくて堪らない気持ちになるのはどうしてなのだろうと、朦朧とする意識の中で考えた。
 勃たせるだけなら指だけ使えばいいのに、どうしてここまでするのだろう。男のものなんて口にして気持ち悪くはないのだろうか。そんな疑問も激しく扱き上げられる快感に弾かれ消し飛んだ。
「あっ、駄目! ゆ、き…や、めて」
 出る出ると譫言のように繰り返して、幸人の髪を指で掻き回した。言葉とは裏腹に腰を突きだして強請るように振り立てると、応えるように指まで使って益々激しく吸引され、搾り出されるように腔内に放出した。
 脈動に合わせて二度三度と出る迸りを、幸人は最後の一滴まで嚥下してから漸く綾人を解放した。それからゆっくりと、激しい興奮にしっとり湿った綾人の身体の上に覆い被さった。
 汗のために少し冷えた綾人の身体に熱い幸人の身体は心地良かった。安堵の吐息を漏らしながら自然に腕を広げて幸人の身体を抱きしめると、耳元で「気持ち良かった?」と囁かれた。途端に自分の演じた痴態が蘇り、真っ赤になって顔を背けた。
「綾人? 良くなかった? 俺にされて嫌だった?」
 不安げに畳みかけられて、慌てて違うと否定した。
「は、ずか、しい…」
 あんなに喘いで喜んで、幸人の目にどんな風に映ったのだろうと思うと怖かった。
「綾人を、そんなに羞恥心の強い人間にしてしまったのは俺たちのせいだよね。あれからずっと気になって、いつも叔母さんに様子を聞いていたんだよ。ごめんね…。でも、誰だって、人前で食事を取るのは恥ずかしいものだと思うよ。口の中は本来人に見せない所だからね。
 フランスで暮らしていた友人の話にこんなのがあったよ。向こうの男は女性を食事に誘ってOKだったら、セックスもOKだと思うんだって。何故だと思う?」
 突然振られた話についていけず、綾人はただ首を振った。
「口と肛門は、消化器官の入口と出口だよね。口は本来肛門と同じく隠しておくべき器官の一つで、そこを見せ合う食事を共に出来るって事は、下の口を見せ合うセックスも出来るっていう事なんだって。すごい屁理屈だと思うけど、確かに、食事は気を許した人とする方がリラックスして楽しめるし、セックスは隠しておきたい大事な部分を晒け出して愛し合う行為だよね。
 自然と受け入れてるけど、キスも、セックスも粘膜を擦り合わせて快感を得るんだよ。頭で考えちゃうと出来なくなるよね…」
 一歩間違えると卑猥に聞こえる内容を真面目に淡々と話す幸人を、綾人はポカンと口を開けて眺めた。幸人はその顔を見て少し笑い、肘と膝で自分の体を支えながら、左手で柔らかくなった綾人の雄蘂を触った。
「口の中を見せるのも、ここを見せるのも恥ずかしくて当たり前。だから大切な人にしか見せないし、触らせない。恥ずかしいからこそ、セックスは大切な人とするものだと思うよ。綾人ももう簡単に、他人(ひと)に見せたり触らせちゃ駄目だよ」
 諭すように言いながら、幸人は綾人のそこを弄り続けている。またしても芯を持ち始めてしまい、綾人は慌てて幸人の手を握った。
「…ゆきちゃんなら、他人じゃないからいいの? 変だよ…。何で僕に、口で…してくれたの…?」
 勃たせてくれるだけなら、口淫などしなくてもいいのだ。大切な人にだけ触らせろと言いながら、どうして今も綾人のそこを触っているのか。
 幸人はじっと綾人の顔を見つめ、それから自分の手に触れている綾人の手を取って自らの股間に導いた。そこは大きく反り返り熱い脈動を打っていたが、導かれる前から綾人はそこがどうなっているか分かっていた。
「もう随分前から、綾人を想うとこうなった。一時は、綾人の姿を見ただけでもこうなってね、傍にいたら止められないと思ったから慌てて距離を置いた。今思えば、無駄な苦労だった…。
 でも、当時は俺も必死だったんだよ。嫌われたのは悲しかったけど、もう会わなければ傷つける事もないと思ってた…。だけど、今年の四月に会社のロビーで綾人の姿を見かけて…堪らなくなった。十五、六年も続けた苦労が、一瞬で徒労だと悟った。もう自分の心に抵抗するのは止めようと思った。どうしても、どうやっても綾人を手に入れると決めた。だから――」
 切々と訴える言葉は途中で途切れた。綾人の唇が幸人のそれに吸い付いたからだ。
 片手を幸人の首に回し、導かれた手で幸人のそれを包んだ。それでもまだ足りない気がして、両足を幸人の腰に絡めてしがみついた。
 幸人が驚いたのは一瞬で、見開いた目を細めて笑うと、すぐに綾人を抱きしめ返し、深い深いキスをした。
 彼女がいたのだから経験がないとは言わないが、ここまで激しく舌を絡め合うキスなどそうそうした事がなかったから、綾人はすぐに根を上げた。
 苦しげに呻く綾人の唇を離したものの、弾力のある綾人の唇を噛んだり嘗めたりしながら、幸人は楽しげに「綾人が好きだよ。子どもの頃からもうずっと。綾は? 綾は俺をどう思ってる?」と愚問を口にする。
「好き。僕も…ずっと、ゆきちゃんが欲しかった…」と愚答で返すと、また深く口づけられた。
 綾人は幸人の事を恋愛対象として見た事はなかったが、ずっと幸人が欲しいと思っていたのは真実だった。幸人のくれるものなら何でも欲しかった。視線でも、微笑みでも、お小言でも。どんな些細なものでも、幸人が与えてくれるなら一つ残らず欲しかった。綾人が長い間渇望していたものは幸人なのだ。だから、綾人に拒否する気持ちはないし、それが女を愛でるように扱うという事でも、何の異存もない。
「綾…綾人、俺の大事な愛しい従兄弟。ごめんね。もう、元には戻れないよ」
 厳かに宣言されるように囁かれ、髪を撫でながら顔中に口づけされた。嬉しくて自然と唇が綻ぶ。喉の奥を鳴らして笑うと握っていた幸人のそこが更に太さを増したようだった。
「綾の中に挿れたいけど、今日はお腹が可哀相な事になったからね…。これ以上お尻に負担をかけられないから、少しだけ我慢するよ。綾、後ろ向いてくれる?」
 綾人は幸人の言う通り素直に転がって俯けになった。
「膝をついてお尻を上に向けて…そう。股が広がらないように太腿閉じておいてくれる?」
 取らされた態勢と指示された内容に、幸人が何をしようとしているか察した綾人は、顔を赤らめて背後の幸人を窺うとジェルを自身に擦り込んでいるところだった。ずっとまともに見られなかったのだが、そのあまりの立派さに震えが走った。
 引きつった顔を見せる綾人に「大丈夫だよ。痛いことはしないから」と笑って、幸人は綾人の太腿の間に固い雄蘂を差し込んだ。
「あうっ!」
 幸人は綾人の腰をがっちり掴んで腰を打ち付けるようにピストン運動を繰り返した。身体が揺らいでしまわぬように、綾人は必死にシーツを掴んで耐えるけれど、太腿を付けた状態を維持するのは難しい上に、これが、結構感じてしまうのだ。幸人のそれが綾人の陰嚢(ふぐり)のくびれに沿わせて出たり入ったりする度に、裏筋も擦って行くから堪らない。
「あんっ、あっ、あっ、ああ…ん」
「いい声だ…。綾は昔からくすぐったがりで、感じやすかったから…楽しみだね」
 そう言って綾人の背中に被さって、背中にキスして喋るから余計にくすぐったい。オマケに前に回した片手で乳首を転がされるし、もう片手で鈴口を撫で回されて、もう鳴かずにはいられない。綾人の膝はガクガク震えて合わさらなくなった。
「綾人、来年のお正月は一緒に鎌倉の家に行こうね。お祖父ちゃんと一緒にお雑煮食べたら早々に引き上げて、ホテルでゆっくり愛し合おう」
「う、ん…」
 姫始だよ…と嬉しそうに囁くと、幸人は叩き付けるような容赦ない抽挿を繰り返した。獣のような呻きを漏らして喘ぐ幸人の激しさに、ぞくぞくするほど感じてしまい綾人の方が先に吐精すると、追いかけるように幸人も白濁を飛ばした。
 二人分の熱い迸りを胸に受けた綾人は、何て凄いことをしてるんだろうと、やっぱり恥ずかしさが込み上げたけれど、それは今まで感じた事のない、嬉しいから感じる甘酸っぱい恥ずかしさだった。
 荒い息を吐きながら覆い被さる幸人の熱に包まれて、最悪なクリスマスの夜は、綾人にとって最高の、忘れられないクリスマスになった。

 (了)


今後の励みになりますので、ご感想を是非。

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