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忘れられないSt. Valentine's Day 2011
成 功 報 酬 〈 下 〉

※ 性描写があります。未成年の方はお読みにならないでください。

 幸人は受信機を持ったまま部屋を飛び出した。エレベーターを待ちながら白鳥の携帯へかけたが繋がらない。忌々しい思いに駆られながら、白鳥が何を考えているか推測した。
 馬鹿正直に三十分以上も待ってしまったから、もしホテルを出たとしたら、もう捕まえる事はできないかも知れない。けれど、意識が朦朧としている人間を運び出すなんてそう簡単にできないだろうし、白鳥が綾人を連れ出すとは考えられなかった。だとしたら、まだホテルの中にいる。恐らく別の部屋の中に。
 取り敢えず地下まで降りてレストランへ向かった。レジカウンターで呼び出しを掛けて貰ったが、既に出てしまっていた後だった。幸人はそのまま一階へ階段を駆け上がり、フロントで白鳥の部屋番号を尋ねた。かなり待たされたが、思った通り白鳥は自分の名前でも部屋を取っていて、フロント係が部屋番号と共に「お待ちしています」との伝言を腹が立つ程にこやかに教えてくれた。
 逸る気持ちでエレベーターを待ち、弾力があるカーペットを蹴りつけて目的の部屋まで辿り着いた。部屋を飛び出してから既に三十分。二人が消えてから一時間以上経過していた。
 自分の吐息と同じくらい荒々しくブザーを鳴らすと、すぐにドアが開いて「思ったより早かったね」と言いながら白鳥が顔を出した。幸人は押し入るように中へ入ると、「綾は!?」と怒鳴って白鳥に詰め寄った。
 白鳥はしっ、と唇の前に人差し指を立て「奥の部屋で寝てる」と囁いた。二部屋あるという事は、幸人の名前で取った部屋よりも高い。幸人は頭がクラクラした。こいつは一体何を考えているのか。
「どういうつもりだ!?」
 声を落としながらも、抑えきれない怒りを滲ませて訊くと、「依頼を遂行しているだけだよ」とすっとぼけた返事をした。幸人はカッときて更に言い募ろうとしたが、白鳥は「まあ、落ち着け」と宥めるように言いながら、両手を広げて幸人の方へ押し出すような仕草をした。
「ワインに微量の睡眠導入剤を混ぜたんだよ。綾ちゃんには少し素直になって貰おうと思ってね。事前に詳しく説明しなかったのは悪かったけど、お前が嫌がるだろうと思ったから黙ってたんだ」
「素直って、どういう意味だ。お前、まさか、綾に何かしたんじゃないだろうな?」
「何もしてないよ。まあ、ちょっと暗示みたいのはかけたけど」
「暗示?」
「そう、簡単なやつね。催眠誘導みたいなやつだけど、本格的なものじゃないからそんなに効果はない…けど、上手くやれば幸の思うように事を運べると思うよ」
「催眠誘導って、催眠術みたいなやつか? 俺はそんな暗示をかけてまで綾を思い通りになんて…」
 大事な綾人に何て事をするんだと、怒りが込み上げてまた声のトーンが高くなったが、その声を制するように白鳥が低く唸った。
「『どんな手を使っても手に入れたい』お前はそう言って、俺の所に来たんだろうが!」
 滅多に感情を表に出さない白鳥の怒気を孕んだ声音は幸人を簡単に黙らせた。
「今の状態じゃ、手に入れたとは言えないだろうが。どっちにしろ最終的には彼と一緒に暮らしたいんだろう? だったら、今更なりふり構ってられないじゃないか。それとも、やっぱり諦めるのか?」
 言われて、そうだったと、どこかへ素っ飛んでいた自分の決意を思い出した。以前、綾人に『もう、元には戻れないよ』と言ったが、あれは自分自身に言ったようなものだった。
 幸人が黙って項垂れると、白鳥は幸人の肩をポンポンと叩いて穏やかな口調で言った。
「俺は見かけほど、お上品にはできてないからな。俺のやり方が気に入らないなら仕方ない。でも、この間も言ったけど、俺は友人としてお前のためを思ってるし、誠心誠意、依頼を遂行してるつもりだよ。だからとにかく、騙されたと思って綾ちゃんにお前の思ってる事を伝えてみろよ。絶対に上手く行くから。もし、駄目だったら報酬はいらないよ。ここの払いも俺が出す。そうだな…成功報酬にしよう。成功したら、お前の思う金額を出してくれ」
 そう言うと、もう一度幸人の肩を叩いて白鳥は部屋を出て行った。
 自分の甘さを指摘され目が覚めた気はしたが、やはり白鳥の取った行動が釈然としないせいか、晴れない霧が胸の中に立ち込めたまま、幸人は綾人のいる奥の部屋へ入った。
 照明を点けると、ベッドの中から綾人が顔を覗かせた。まだ半分眠ったようなトロンとした目つきをしている。心配になって駆け寄ると、「ゆきちゃん?」と確かめるような声がした。
「そうだよ、綾。ごめんね、遅くなって。大丈夫? 気分は悪くない?」
 問いかけながらベッドに乗り上げて綾人の傍に躙り寄る。頬を撫でて顔色を窺うと、綾人はくしゃりと顔を歪ませて両腕を伸ばした。幸人は慌てて掬い上げるように綾人の身体を抱きしめると、「ゆきちゃん、ゆきちゃん」と泣きそうな声を出してしがみついてきた。
 中途半端な姿勢で抱き付かれた苦しさに、幸人は綾人の身体を抱き起こして膝の上に抱え上げると、上掛けから出て来た綾人の下肢は剥き出しで、ワイシャツ以外何も身に着けていなかった。
「綾! あいつに何かされたのか!?」
 あられもない格好に焦ってきつい調子で尋ねると、綾人はぐすっと泣き出して「ごめんなさい〜」と呻いた。
 やっぱり何かあったのかと「どうした? ん? 怒らないから、言ってごらん」と促すと、綾人は幼い子どものようにぐずりながら「触られちゃった。大事な所…。もう、簡単に触らせちゃ駄目だって言われたのに…ごめんなさい」と謝った。
 瞬間的に幸人は体中の血が滾(たぎ)るのを感じた。
『あの大嘘つき野郎が!! 何もしてないと言ったくせに!』と胸中で叫びながらも極力感情を抑えて、「謝らなくていいよ。綾は悪くない。大丈夫。怒ってないよ」と言い聞かせるように綾人の頭を撫でた。
「でも、怒ってる…でしょう? 僕が、嘘吐いてたから…。ごめんなさい。白鳥さんに言われたの。謝るから、嫌いにならないで…」
「えっ? 嘘って、何の事? あいつに何を言われたの?」
 嘘って言葉に激しく動揺した。白鳥に何を言われたのだろうかと綾人の身体を離して顔を覗き込んだ。綾人は俯いたが、ぽつぽつと話し出した。
「一月のセミナーが終わってから、仕事、そんなに忙しくなかったのに…ずっと、ゆきちゃんの誘いを断ってた。白鳥さん、何故だかその事知ってて、ゆきちゃんも、薄々分かってるって。ゆきちゃんは、すっごくモテるし、誘う人はいっぱいいるから、そのうち嫌われちゃうよって…」
 最後は声を詰まらせて幸人の胸に抱きついた。
 幸人は嘘を吐いてまで断られていた事に軽くショックを覚えたが、そう簡単に自分が綾人を嫌いになる事はないだろうと自嘲した。ただ、どうしてそんな事をされたのかは知らなければならない。
 頭の中に『素直になって貰う』と言った白鳥の言葉と催眠誘導の事が浮かんだ。暗示をかけただけで、そんなに効果はないと言っていたが、綾人の様子が平素と違って子どものようだし、淀みなくとは言えないが素直に答えている。白鳥の言った通り、今ならどんな事でも聞けそうだ。
「嫌わないよ。でも、どうして嘘なんか吐いてたの?」
 綾人の髪を撫でながら優しく問うと、赤くなってもじもじしていたが、「会ったら、エッチするんでしょう?」と言った。
「そりゃあ…」
「お正月の時と同じようなの、されたら…こわい」
 幸人は『やっぱり、そうだったのか』とガックリ項垂れた。「嫌だった?」とため息交じりに聞くと、綾人は慌てて首を横に振った。
「違う! 嫌なんじゃなくて…その、良すぎて、こわいの」
「良すぎて?」
「ん…。セックス、した事ない訳じゃないのに、全然違う事してるみたいだった。あんな…所が、あんなに気持ちいいなんて…知らなかった。あれから、お風呂の中とか、寝てる時…だけじゃなくて、電車の中でも、会社でも、ちょっとした事で思い出しちゃって、大変だったから…」
 そう言って、何を思い出したのか真っ赤になってまた首を振った。
 幸人は綾人が猥らな欲求に懊悩する姿を思い浮かべて笑いそうになるのを咳払いで誤魔化して、呆れた口調で「それで距離を置こうとしたの?」と聞くと、綾人は小さくなってコクリと頷いた。
 経験値が少ない綾人の事だから、考えれば然もありなんと思うが、お預けをくらった悔しさも手伝って悪い虫が頭を擡げた。綾人が上目遣いにこちらを窺っている。幸人は「仕様がないなぁ」とため息交じりに笑って見せた。
 綾人がほっとした顔をするのを見届けてから、幸人は綾人の耳朶を咥えて舌先で弄った。
「ん…ふっ……」
 綾人は鼻から息を漏らして身体を震わせた。
「怒ってないから、何を思い出して、どんな風になるのか、教えて?」と嫌らしい口調で息を吹きかける。綾人は色っぽい吐息を吐いてトロリとした目つきで幸人を見上げ、
「ゆきちゃんのエッチな目つきとか…、声も…ゾクゾクして、熱くなって…」
 勃っちゃう…と呟いた。どう見ても誘っているとしか思えない。
 堪らずに綾人の下肢へ手を伸ばすと、皮を被った筑紫の子が頭を擡げ、割れ目に大きな露の玉を載せていた。幸人は喉を鳴らし、その露を指に取ると裏筋をなぞりながら後ろの窄まりまで滑らせた。
 綾人の身体が後ろへ撓(しな)るのを捕まえて、指を窪みに差し込む。指は何の抵抗もなくつるりと奥へ呑み込まれ、瞬時に白鳥に悪戯されたのを思い出して身体が強張った。
 ピタリと固まって怒気を漲(みなぎ)らせる幸人に、綾人は敏感に反応して「ごめんなさい」と泣きついた。
「気がついたら、もう白鳥さんの指が入ってて…」
 お願い、嫌わないでと必死で懇願する綾人の声に、はっとして強張りを解くと苦笑いした。綾人は負の感情に敏感過ぎて、勃ち上がっていたそこも僅かに萎れかけている。
「綾はお馬鹿さんだな、嫌わないよ。さっきも言っただろう?」
 幸人は綾人の額にチュッとキスして気持ちを切り替えた。元はと言えば、他人に頼りすぎた自分が悪いのだ。何にせよ、起きた事にいつまでも拘っていてはチャンスを逃してしまう。綾人には悪いが、今が攻め時だ。
「でも、綾がこんなに興奮して、前も後ろも濡らしていたのは、白鳥の指に感じちゃったからだろう?」
 言いながら、襞の間にしまい込まれた綾人の泣き所を突いてやると、びくんと綾人の身体が跳ねて雄蘂からピュッと先走りが飛んだ。少し荒っぽく中で指を動かしても遺憾なく動くから、かなり拡張されている。あの野郎、どんだけ弄くってたんだかと胸の中で舌打ちして、「綾は、結構、淫乱なんだね…」と揶揄するように囁いた。
「ちっ、ちがう…」
「違わない。綾は、俺じゃなくても感じちゃうんだよ。俺とはしてくれない癖に、ほら、こんなに濡らして…。綾がしてくれないなら、俺も他の人としようかな」
「いやぁっ! 駄目! 他の人としないで! 嫌だぁ!!」
 幸人は口元を緩め、パニックを起こして子どものヒステリーみたいに泣き喚く綾人の身体を押し倒した。
「嫌なの? じゃあ、これからは、俺の言う事を何でも聞く事。いい?」と上から泣き濡れた顔を覗き込んだ。
「きく…」コクコクと頷く綾人にニンマリ微笑むと、「じゃあ早速、綾は来週から俺のマンションへ引っ越して来る事。毎週末は、必ずエッチする事」と厳かに告げた。
 綾人は勢いに任せてコクコクと頷いたが、途中で何事かに気がついたのか、幸人の顔を見たまま固まった。
「綾、叔父さんと叔母さんの事、考えてるんだろう?」
 図星だったのか、綾人は困ったように目を伏せた。
 幸人は綾人の上から起き上がると服を脱ぎ始め、呆気に取られて眺めている綾人の前で素っ裸になると、綾人の身体を跨いで膝立ちになった。そうして綾人の両手を取ると半勃ちになった自分のものを触らせた。
「クリスマスの時に言っただろう? 俺は綾人を見ただけでも勃起するんだよ。綾人に誘いを断られて、仕事だから仕方ないと思いながらも辛かったよ。綾がセックスがこわいって言う気持ちも分からなくはないけど、俺の気持ちはどうなるの? 俺は綾が好きだよ。愛してる。もう片時も離れたくない。だから、一緒に暮らしたいんだ。
 ねえ、セックスなんか、毎週のようにしていれば、そのうち慣れて普段の生活に支障を来すなんてなくなるし、お互い忙しくてすれ違ってても同じ部屋に帰って来ると思えば、俺はそれだけでも満足できるんだよ。綾、俺の部屋へおいで。叔父さんと叔母さんには上手い言い訳を考えてあげるから」
 そう言って微笑むと、じっと聞いていた綾人はゆっくり身体を起こし、「うん。僕、ゆきちゃんと一緒に暮らす…」とすっかり涙の乾いた無邪気な顔で笑った。そうして幸人の肉棒を捧げ持ち、まるで誓いのキスでもするように先端の割れ目にチュッと吸い付いた。
 そのまま口に咥えて舌を這わせる。初めてするのだから拙くてそれほど良くはない。それでも口元を汚しながら懸命に舌を動かす様はいじらしく、頭を抑えて喉の奥まで激しく突っ込んでしまいたい衝動に駆られ、既の所で耐えた。
 一頻り綾人は幸人の張り出しをしゃぶっていたが、顎が疲れてしまったらしく口から外すと頬ずりした。
「俺の、好き?」
 笑いを含んだ声音で尋ねると、綾人は幸人の陰嚢(ふぐり)と竿を撫でてうっとりと頷いた。
「好き。本当は、ずっとしたかった…」
 綾人がまた口に含もうとするのを制し、幸人は腰を下ろして綾人の頬を両手に挟んで引き寄せた。
 閉じられなかった唇から唾液が流れて濡れている。舌で拭ってやりながら唇を割ってディープキスをすると綾人の身体から力が抜けた。
 幸人は綾人押し倒してワイシャツのボタンを外すと、胸の突起を唇に挟んで舌先で転がした。
「うっ、ふっ…ん…」
 綾人の腰が波打って、ふるんっと筑紫の子も揺れた。乳首を攻めながら根本から摘み取るように指を絡ませ緩く扱くと、先端の割れ目からたらたらと先走りが溢れてくる。
 その汁を手に取って、指を三本まとめてひくつく入口に差し込むと、綾人が歓喜を含んだ悲鳴を上げて身悶えた。平素と違う快感に素直な綾人もそそられる。
「ねえ、綾、俺と会わないあいだ、自分ではしたの?」
 悪乗りして自慰はしたのかと問うと、「した…」と、か細い声で即答した。
「ここは? 弄った?」
 優しく前立腺を撫で回すと仰け反りながら首を振った。
「こわくて…入れられなかったから、上手く達けなかった…」
 ノーマルなセックスではもう飽き足らなくなったと白状したも同然だった。しつこくしたとは言え、一日くらいの情交でここまで順応してくれるとは。
 幸人はもう後戻りはできない責任と自覚をもって綾人の身体を眺め回した。汗を纏ってしっとりと湿った肌は輝くようで、最高の宝物を手に入れた満足感に満たされる。
「ゆきちゃん…もう、お願い…」
 涙に潤む瞳で懇願する顔はいつもの恥じらいを秘めているのに、身体の方は大胆に足を広げて指を銜え込んだ秘所を曝して見せる。
「もうちょっと、我慢できない?」
 楽しみを先延ばしにしようとわざと焦らすように言うと、「だって、お尻…熱くて、ムズムズする…」と切なげに身を捩った。そう言われれば実際に熱いような気がした。内部の滑りは綾人の先走りだけでなく白鳥が施したらしい潤滑剤も含まれている。もしかしたら、こちらにも何か薬品を使われたのかも知れない。
 幸人は怒りを通り越し、呆れて果ててため息が漏れた。
「じゃあ、綾、後ろ向いて」
 幸人は綾人から指を抜いて四つん這いになるよう指示した。その間、床に脱ぎ捨てたジャケットの内ポケットからスキンを出して自身の楔に装着し、再びベッドへ戻ると、尻を突き出した格好でフラフラと心許なく腰を揺らしている綾人の尻タブを掴み、谷間を広げて窄まりを観察した。
 少し開いた入口から赤く充血した粘膜が見える。特に異常はないようだった。ベッドを共にした相手は数え切れないし、いちいち覚えてもいない。欲望を注ぐこの場所だって初めてした白鳥の以外、じっくり眺めて見た事もなかった。
 こうして眺めると、綾人の秘所には特別な愛着を感じる。何を塗られたか分からない状態でなければ、前回のように心ゆくまでキスして舐め回して遣りたい。
 脈動に合わせて何かを訴えるようにひくついているのが哀れを誘い、宥めるように指でなで回すと「ゆきちゃ〜ん!!」と綾人が泣き声を上げた。
 せっつかれて幸人は苦笑しながら楔を宛がうとゆっくりと綾人の中へ分け入った。
「あっ、あっ、あっ…」
 綾人は短く声を上げながら呼吸を合わせているようだった。曲がりそうになる綾人の背中を片手で押さえながら、もう片方の手で雄蘂も一緒に擦ってやると、か細い悲鳴を上げて腰を前後に振った。
 勢いで幸人のものが根本まで埋まり締め付けられる。熱く絡みつくような襞の動きに、不覚にも腰が砕けそうになる。
「くぅっ」と呻いて下肢に力を入れ、綾人の腰を引き寄せて負けじとばかりに激しく何度も突き上げると、握っていた綾人のものがどくどくと脈動し指に熱い滴りが伝わった。綾人はそのままズルズルと前のめりに伸びて行く。
「あっ、綾?」
 慌てて声をかけると辛うじて返事が返って来た。また寸止めされては堪らないとほっとして綾人の中から自身を抜き取ると、綾人の身体を仰向けにして足を抱え上げた。熟練した職人のように一差しで結合を果たすと、痙攣する綾人の身体を抱え直した。
「綾、ちょっと我慢してね。これを過ぎると、もっと良くなるからね」
 感じすぎて声も出せない綾人は、泣きながら身を捩る。幸人は己の欲望を満たすように激しい抽送を繰り返したが、途中途中で綾人のツボを突いてやるのも忘れない。萎れていた前が見る間に勃ち上がり露を零しながらフルフルと震えた。
 この分なら後ろだけで達けるようになるのも早いだろうと、先が楽しみな恋人の痴態にニンマリしながら、親指と一指し指で作った輪で綾人の亀頭の下、括れに合わせて緩く扱いてやると、幸人を包み込む襞がきゅっと絞るように収縮した。
「ああ…綾、すごいよ。気持ちいい…」
「ん…」
 綾人が頬を紅潮させて健気に頷くのが目に入り、抑えが利かなくなった幸人はそのまま激しく腰を打ち付けた。唸りながら解放を迎えると、緩く扱いていただけの綾人のそこからも白濁が吹き上がり、綾人はそのまま意識を失ってしまった。
 朝、幸人の腕の中で目覚めた綾人は、「おはよう」と笑う幸人の顔を穴が空くほど眺めた後、自分が何処にいるのか分からないと言った顔で「あれ? 僕…。あれ?」と言いながらキョロキョロと辺りを窺った。
「綾、おはようのキスは?」
 幸人が何食わぬ顔で綾人の顔を覗き込むと、綾人は赤くなりながらもチュッとキスをして「おはよう」と笑った。その愛らしさに幸人は綾人の身体を抱きしめ、シーツから剥き出しになった肩や首筋を嫌らしく撫でてやる。綾人は身体をピクリと震わせて、はぁっと悩ましげな吐息を漏らした。
 あの後、幸人は物足りなくて意識のない綾人の身体を弄くり回した。意識があってもなくても弱い所を攻められると同じ反応する綾人に、幸人は面白がって昨晩つけた赤い刻印を指でなぞった。
「綾、昨日の事、覚えてないの?」
 綾人は明後日の方角を見て、恥ずかしそうな困ったような顔をして考え込み、「すごいエッチな夢見てるのかと思ってたんだけど…」と言って真っ赤になった。
「あれ、夢じゃなかったんだ…」
「どこまで覚えてる?」
「えっと、白鳥さんと食事をしていて、飲み過ぎちゃってすごく眠くなって…その後…」
 綾人は「うっ」と呻いた後、「やっぱり、あんまり覚えてない!」と慌てたように首をブンブン横に振った。
 全部は覚えていないにしろ、記憶がない訳ではないらしい。曖昧な部分が夢のように感じられるのは、白鳥がかけたと言った “ 暗示 ” のせいかも知れない。
「いいよ。これからゆっくり俺のマンションで、どんな些細な事もぜ〜んぶ、思い出させてあげるから。何しろ今日はバレンタインデーだからね」
 そう嘯く幸人に、綾人は赤くなったり青くなったりしながらも、「うん…」と小さく頷いた。

 こうして幸人は仕方なく、白鳥に報酬を払う事にした。だが、いくら払うか決め兼ねた。
 白鳥が綾人に対して働いた数々の悪戯には心底憤慨していたし、すんなり払うのは業腹だった。悩んだ挙げ句、キャッシュで二十五万円を松崎の事務所まで直接払いに行った。勿論、白鳥が事務所にいない事を確かめた上でだ。
 どういう事情か分からずに戸惑う松崎に現金を差し出し、
「事情は白鳥から訊いてくれ。気をつけろよ、松崎。アイツを甘やかすと、そのうち酷い目に合うと思うぞ…」と、深くため息を吐き、意気消沈した風を装って事務所を後にした。
 後日、松崎からメールで幸人の銀行口座を尋ねられた。
『何故?』と短いメールで問うと、『誠を締め上げて白状させた。ついては先日の現金を返したい。悪かったな。』と返信が来た。
 してやったりとの気持ちはあったが、松崎に謝られても仕方ないのにと思いながら、幸人が振り込み口座を打ち込んでメールを送信すると、即座に『覚えてろ!』という白鳥からのメールが届いた。
 幸人はプッと吹き出して、漸く溜飲が下がった気がした。

 (了)


今後の励みになりますので、ご感想を是非。

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