INDEX NOVEL

恋 の 先

※ 性描写があります。18歳未満の方はお読みにならないでください。

 キスされながら抱え上げられて、あっと思う間もなく少し高い場所へ座らされていた。それがダイニングテーブルの上だと気づいたのは、着ていたエプロンを外され、寝間着の胸をはだけられた後だった。
 いつの間に脱がされるのか、いつも気がつけば裸に剥かれている状態で、毎度の事ながら吃驚する。聡のキスは息もできなくなるほど激しく貪るようで、とても他に意識を回すなどできないのだから当然と言えば当然で。
 咥内を犯されたような感覚に痺れてしまった身体を聡に預け、唇から首筋に下りる温かく濡れた感触に戦きながら、それが胸の一番敏感な場所に吸い付くと堪らず声を上げて仰け反った。
 身体が傾いだ不安定さに慌てて後ろ手をついたが、床の上ではないのにこんなに広くて硬い場所があったろうかと、はっとして目を開けると、目の前の聡はダイニングテーブルの椅子に腰をかけて、ニヤニヤしながら修二を見上げていた。
「な…に、ここ、テーブルの…上?」
「うん、だってすぐに修二を食べたかったから」
 悪びれずに言う聡の言葉に、我に返って自分の格好を見てみれば、寝間着の上着は既に肩からずり落ちて諸肌脱げているし、下穿きだって膝下まで下ろされて、あろう事か伸縮性のあるビキニパンツから濡れた自分自身がはみ出した状態だった。
 躾に厳しい祖母に育てられた修二にとって、こんなあられもない姿で食事をするべきテーブルの上に乗っているなど言語道断。行儀の悪いこと此の上ないと慌てて降りようとするけれど、修二の行動の三手先を読む聡に敵うわけもなく、素早く下穿きを剥ぎ取られ足の間に割って入られると身動きできなかった。
「ここじゃ嫌だっ!」
 そう言って修二は必死に頭を振ったが、聡は何所吹く風といった風情で
「でも修二、いつもより感じてない? ここも、こっちも」
 嬉しそうに笑いながら右手の指で修二の乳首を摘み、左手の中指で下着から覗く露の玉をいただいた鈴口を、露を塗り広げるように撫で回した。
「あっ、んっ…」
 弱い所を二箇所も弄られて思わず声が出る。修二の甘い喘ぎに後押しされるようにどちらの指にも更に力が籠もった。
「あぁっ、痛っ…い…」
 胸にちりちりとした痛みが走る。修二は堪らず、石榴の一粒みたいに紅く色づいた胸の突起を執拗に弄くる聡の腕に手をかけた。
 聡は悪戯を咎められた子どものように拗ねた顔をして修二を見たが、上目遣いに「ホントに痛いだけ?」と囁いて、もう片方の突起を口に含んで転がすと、硬く立ち上がったそれを前歯に挟んで甘噛みした。
「あっ! お願い、噛まないで…」
 修二が叫ぶと同時に、聡が撫で続けている先端から蜜が溢れ出した。
「ああ、やっぱりいつもより感じているよ。ねぇ、修二、痛いだけじゃないでしょう?」
 そう言うと、また修二の右の乳首に強弱をつけて噛みついては舌先で先端を舐った。
「う…んっ、い、いっ、あ…んっ」
 痛みが酷くなる直前に快感へと巧みに切り換えられて痛みすら気持ち良い。そんな自分が怖くて、愛撫の手から逃れようと身体を徐々に後へ傾け、最後は肘を付いて上半身を支える体勢になったが、聡はその動きに合わせて修二の身体に覆い被さった。
 お陰で修二の股間は聡の臍の辺りに密着して指と腹とで同時に擦られる形になってしまった。聡はわざと腰を振って腹の間で捏ねるような刺激を与えたが、下着を外していないからそれほど強い刺激は得られない。
 修二はテーブルの上でセックスしている罪悪感と、そこからくる淫らな官能に眩暈がするほど感じていた。両胸の突起に施される刺すような鋭い刺激がダイレクトに下半身に落ちてくるのに、下着で堰き止められていてもどかしく、焦れったさに涙が滲んできた。
「聡…、もっ、触って…」
「ん? どこを?」
 分かっているのにそう言って焦らす聡が憎らしい。でも、それはいつもの事で、修二がはっきり口に出して求めるまで先に進めてはくれないのだ。普段は修二を立ててくれる優しい聡だが、ベッドの中では意地悪な暴君になる。
 こんな所も昔と全く違っていて、最初は随分戸惑った。互いにそれなりの経験を経ているのだから、当然と言えば当然だけれど、いいように翻弄する物慣れたあしらいに、どれだけの相手と夜を過ごして来たのかと、詮無い物思いに駆られる時もある。
 指先一つで簡単に達かされるのが悔しくて、一度無言で抵抗したら気が遠くなるほど微温く攻め続けられ、最後にはあられもなく泣いて縋った。
 何度も恥ずかしい言葉を言わされて散々啼かされたが、性懲りもなく抵抗してしまうのは、淫らになりきれないせいなのか、数多の恋人の影を感じてしまうからなのか…。
 それでも今日は自分からあんな告白をしたせいか、聡に言われるまでもなく敏感になっているのは自覚していた。もっと、もっと感じたくて、普段なら渋々告げる言葉を素直に口にする。
「し、下着、取って…直接、触って」
「だ、か、ら、どこを?」
「い、じ、わる…だ」
 修二は思わず涙目で睨みつけたが、逆に聡を喜ばせただけだった。くすっと笑いを漏らした聡は、修二の下着を脱がせると右足の膝を立てさせてテーブルの上に乗せ、股を大きく開かせた。
 待ちわびた刺激を漸く与えて貰えると期待して、はぁっと大きく息をつくと、修二は肘で支えていた身体を完全にテーブルの上に横たえた。
「どっちがいいのかな〜と思ってね…」
 聡は節をつけて囁きながら、修二の先端から滴る透明な液体を指ですくい、尻のあわいに滑り込ませて最奥の窄まりをゆるりと撫でた。
 修二は期待したのとは別の刺激に、びくっと身体を震わせた。後孔が疼いて信号のように前に伝わる。
 まだ焦らすつもりでいるのだと思うと堪らずに叫んでいた。
「前も後も両方!! 舐めて、触って、気持ち良くして!」
 言った瞬間、ぷっと吹き出す音の後に聡の笑っているのだろう振動が伝わって、修二は羞恥に真っ赤になって顔を両手で覆ったが、「了解」と笑いながら答えた聡の声を聞いた後は、あっと言う間に快感の波に呑まれて羞恥心など吹っ飛んだ。
 今までのゆるゆるとした愛撫と打って変わって、陰茎をすっぽり銜えられ唇と舌を巧みに使って先端から根本まで激しく扱かれると、たちまち上り詰めてしまった。身体が浮き上がるような心許なさに、思わず聡の頭を抱え込んだ。
 聡は遠慮なしに後孔へ中指をツプリと差し込んで、ゆっくりと、だが迷わずある場所をぐっと押さえた。あまり指が濡れていないせいで引き連れる痛みを感じたのも一瞬で、激しい射精感に襲われた修二は、「ひっ」と短い悲鳴を上げると、テーブルについた足にぐっと力を入れて既の所で持ち堪えた。その代わりに腰が上がってしまい、自ら強請るように股間を押しつける格好になってしまう。
 聡は修二の先端だけを銜え、尖らせた舌先で鈴口を割るようにして溢れ出る先走りを舐め取りながら、右手で陰茎を絞るように扱いた。同時に後孔に入れた指を回しながらポイントだけを的確に擦り上げる。
「はっ、あんっ、ん―――」
 修二は喉を鳴らして仰け反った。聡がちゅっと音をさせて口を離し右手で扱く動きを速めると、痺れるような快感が息つく暇もなく打ち寄せて修二の頭の中は真っ白になった。無意識に浮かせた腰が小刻みに震え、下腹を痙攣させながら胸の上まで白濁を吹き上げた。
 聡が躯から指を引き抜くと、修二はがっくりとテーブルの上に頽れた。しどけなく投げ出した身体は、荒い息を整えるのが精一杯で、射精後の倦怠感にどっぷり浸かって指すら動かすのが億劫だった。
 目を閉じてじっとしていると、突然腰を浮かされて柔らかい物を下に敷かれた。少し湿った感触にバスタオルだと気がつく。
「ごめん。もうちょっと我慢してね」
 笑いを含んだ聡の声が耳のすぐ側でする。胸の上を擦るように指が這う感触に薄っすら目を開けたが、すぐに後孔に異物が入る衝撃に開けた目をきつく閉じた。
 先ほどとはまた違う意図を持った指の動きに耐えようとするけれど、放ったばかりの身体はとても敏感で、ポイントを弄られてもいないのに、ビリビリと痺れるような快感の波にじっとしていられない。身を捩って逃れようとすると、透かさず右足の膝を折って太股ごと抱えて引き寄せられた。
 放った精液を潤滑剤にしたのか、指の動きはスムーズで湿った音が響き渡る。既に二本に増やされた指が内部の粘膜を擦る度に、一度萎んだ蕾が見事に返り咲く。
「やっ、あっ…。もっ、挿れて…」
 射精したばかりだと言うのに、このままでは聡を受け入れる前にまた達ってしまいそうで修二は焦った。一度抜いたら保つなんて、嘘だと思う。聡の熱を感じる前に意識が飛んでしまうのは嫌だった。
「駄目だよ。もう少し慣らさないと。もう駄目? 我慢できない?」
 優しい口調だったけれど、少しカチンとくる。早漏だと認めるのは悔しいと、意識の片隅に染みのように残っているプライドが呟く。だけど、どうやったって聡に勝てる訳がないのだからと自分を慰めてコクコクと頷いた。
「じゃあ、達こうか。いいよ、修二、達って」
 にっこり笑って指の動きを速くする聡が鬼に見える。慌てて首を振ると涙目で抗議した。
「嫌だっ! 一緒がいい。挿れて…。早く挿れて、大丈夫だから…」
「まだ駄目だよ。それに、僕は修二の達く時の表情(かお)、見ているの好きなんだ。さっきも見てた。ぞくぞくするよ。綺麗で、艶めかしくて、ちょっと堪らないんだ。挿れちゃうと見てるだけじゃいられないからね。じっくり見せて」
 修二は耳を疑った。“ 達く時の表情 ” など、どんな表情をしているのか自分では分からないが、いつも快感に耐えるのに必死で、お世辞にも綺麗とは言えない筈だ。それが好き…だって? 冗談じゃない。
 羞恥で火が点いたように顔が熱くなる。熱は首まで下りていき全身に火が回った。思わず両手で顔を隠すと上から聡の笑い声がした。
 後の指が三本に増やされてばらばらに蠢いている。解す目的だけでなく、浅く深く抽挿を繰り返しながら括約筋や前立腺を擽って修二を達かそうとする。
 修二は唇を噛んで意地でも達くもんかと思うけれど、我慢なんて利くものじゃない。おまけに顔を隠しているのに、はっきりと聡の視線を感じる。顔だけじゃない。身体の中心に舐めるような視線を感じる。
 “ 視姦 ” されている。そう思うと恥ずかしさに益々身体が熱くなり、触られてもいないのに今やすっかり反り返った陰茎から、音がしそうな勢いで先走りが滴り落ちた。射精に近い感覚にぶるっと震え、恐ろしくなって涙が溢れた。
「もっ、嫌だ…見ないで。お願い…」
 掠れた声で懇願すると後から指が抜かれ、顔を覆っていた両手を掴まれ聡の首に回すように導かれた。
「泣かないで…。顔、見せて…」
 聡は仕様がないと言った風情で苦笑いを洩らすと修二の身体を起こし、鼻と鼻が触れ合うような距離で優しく囁いた。啄むようなキスをした後、「痛かったらごめんね」と囁きながら修二の陰茎を伝う愛液を自分のものに絡ませて、小さく口を開いた窄まりに猛ったそれを宛がいゆっくり挿入した。
 修二は自ら腰を浮かせて受け入れ易い姿勢を取ると、力を抜いて待ちに待った熱い楔を歓喜しながら呑み込んだ。
「あっ、はっ…」
 穿たれる最初の痛みは何度やってもなくならないけれど、それも一瞬で、却って身体を気遣ってゆっくりと貫かれるのがもどかしかった。
「もっと…強く、して」
 首に回した腕に力を入れて腰を浮かせてぶつけるように深い挿入を強請る。尻を当てた拍子にふるっと揺れた雄蘂が、聡の腹に擦られて糸を引いた。その刺激に仰け反ると聡に頭を引き寄せられた。両手で頬を挟んでキスの合間に囁きかける。
「ああ…、修二の中、熱くて…すごく気持ちいい…。本当に、今日はとても…感じやすくて…。しかも積極的で…素敵だ…修二。今日こそ、後で…達けるかな…」
 ちゅっ、と音を立てて吸い付きながら優しく何度も繰り返されるキスに酔う。挿入したままキスをするのが修二はとても好きだ。下に感じる圧迫感が和らぐ気がするし、一つになれるみたいで満たされる。だから最後に言われた言葉を聞き逃した。
 不意に押し倒されると両足を抱え上げられ、激しく突き上げられた。立った姿勢で下から真っ直ぐ感じる場所めがけて突き上げるから堪らない。修二は悲鳴を上げて逃れようとするけれど、がっちり抱えられて頭を振るのが精一杯だった。火花が散るような弾ける快感に目が眩む。
「やぁーーっ、あっ、あっ、あっ――」
 激しい律動に揺さぶられて、喘ぐ声も切れ切れになる。首に回した腕も振り切られそうで、聡の肩に爪を立てしがみつく。
「つっ!」と呻いた聡の声に、はっと閉じた目を開けた。汗を滴らせながら眉間に皺を寄せて荒く息をつく聡の顔が目に入る。いつも余裕綽々と自分を抱くけれど、快感を追う時はこんな切羽つまった顔をするのだと思うと嬉しくて、後孔に力を入れて抽挿を阻むように締め上げた。
 聡は「くっ」と声を漏らして動きを止めると上目遣いに修二を見たが、フッと意地の悪い笑みを洩らすと、頭を下げて修二の胸にむしゃぶりついた。乳輪ごときつく吸い付かれ乳首をしゃぶられると、全身が粟立って、前もじわりと濡れてくる。
「やっ、駄目っ! だ、め…。で、ちゃ、う…」
 動かれてもいないのに再び激しい射精感に襲われてぐっと息を詰めた所を、今だとばかりに納めた楔を入り口まで引き抜かれ、思いっきり深く突き込まれた。三度、音がするほど打ち付けられて、潮を吹くように射精した。声など出すどころではなかった。
 吐精し終えても止まらない激しい律動に、意識が飛びそうになる。快感に戦慄く唇で喘ぎながら、焦点の合わない瞳で必死に「止めて」と訴えるけれど、聡は綺麗だと繰り返し呟いて修二の身体を揺さぶり続けた。朦朧とする意識の中、下腹に熱い迸りを感じた瞬間、修二は暗い水面に放り出された心地がしてそのまま気を失った。
 翌日、修二が目を覚ましたのは昼を疾うに回った頃で、綺麗に身体を拭われて寝間着もきちんと着せられていたけれど、腕も、腰も、身体も、重くて動かす事ができなかった。
 無理もない。テーブルの上だけならまだしも、ベッドに移動してからも続けられたのだから。二度、後から貫かれて泣きながら達かされたのは覚えている。でも、何時まで聡を受け入れていたのかは覚えていない。
 修二はちらりと視線だけ動かしてこんな身体にした張本人を眺めると、ベッドの側の椅子に腰掛けて鼻唄交じりに上機嫌で新聞を読んでいた。無言で恨めしく睨め付ける視線に気づいた聡は、慌てて新聞を畳むとベッドの枕元に膝をついて修二の顔を覗き込んだ。
「起きた? 身体、大丈夫? 夕べはごめんね。あんな告白されたから、嬉しくて、嬉しくて、つい…。歯止めが利かなくなっちゃった。ホントにごめん」
 聡は申し訳なさそうに眉尻を下げ、囁きながら修二の額に口づけた。
 俺のせいかよ…と、修二は更にムカっ腹が立ったけれど、確かに自分の言動が煽ってしまった感は否めないと大きなため息をついた。そっぽを向いて「…もう、言わない…」と蚊の鳴くような声で呟いたのに、聡の耳にはしっかり聞こえていたようで、
「ごめんっ! 許してっ! ホントにごめんなさいっ! だから、言って、これからも。ねっ、たまにで良いから〜」と上半身をベッドに乗り上げて、顔の前で祈るように手を組んで必死に言い募った。
 その慌てた姿が可笑しくて、修二は思わず笑ってしまった。そっぽを向いたまま怒っている振りをして声を殺して笑っていたが、肩が揺れているのが分かったのか、聡は「修二〜」と脱力した声を上げた。それでもそ知らぬふりを続ける修二の耳に神妙な声が届いた。
「本当にごめんね。でも、凄く嬉しかったよ」
 修二は漸く振り向いて微笑むと、聡も微笑んで修二の髪を梳きながら唇に触れるだけのキスを落とした。
 聡がこんなに喜んでくれるなら、たまには言っても良いけれど、時間と場所を選ばないとね…と身に沁みて感じた修二だった。

 (了)

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